テレビ制作会社の仕組みとは?新動画ストリーミングサービスで高品質のドラマが生まれるワケ
2020年1月29日 15:00

[映画.com ニュース] ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの業界用語を通じて、ドラマ制作の内部事情を明かします。
昨年、アメリカではApple TV+とDisney+という新たな動画ストリーミングサービスが発足した。さらに今年はワーナーメディアのHBO MaxとNBCユニバーサルのPeacockのローンチが決まっており、先行するNetflix、Amazon、Huluに加えて、ストリーミングサービスは群雄割拠の様相を呈している。いずれも自社の豊富なライブラリーに加えて、独自コンテンツを売りにしているが、疑問に思ったことはないだろうか? いずれも新たなサービスのため、これまでにオリジナルコンテンツを手がけた経験はない。それなのに、新興ストリーミングサービスが提供するドラマは主要ネットワーク局のそれに見劣りしないどころか、勝っている場合すらある。ノウハウがないはずなのに、どうして高品質のドラマをいきなり作れるのだろうか、と。

その秘密は、アメリカのテレビ番組が制作とプラットフォームで完全に分かれていることにある。放送や配信を行うプラットフォーム会社は、テレビ制作会社から番組を買い付けているだけにすぎない。だから、新興ストリーミング会社も、信頼できる老舗テレビ制作会社に制作を発注すれば、いきなり一流のコンテンツを提供できるようになるというわけなのだ。
2019年の第71回エミー賞にノミネートされたテレビ番組を制作会社別にランキングしていくと、1位は米有料チャンネルHBO向けにコンテンツを制作するHBOエンターテイメントで、2位ディズニー・テレビジョン・スタジオ、3位アマゾン・スタジオ、4位ユニバーサル・テレビジョン、5位ソニー・ピクチャーズ・テレビジョンとなっている。
映画スタジオの名前を冠した制作会社が多いのは偶然ではなく、ディズニー、ワーナー、ユニバーサル、ソニー、フォックス、パラマウントと全メジャースタジオがテレビ制作部門を保有している。いずれの複合企業もテレビ局を保有しているものの、どの制作会社も自社局向けのみに制作しているというわけではない。

テレビ制作会社としてトップのシェアを誇るワーナー・ブラザース・テレビジョンを例に取ってみると、同社の系列局にはHBO とThe CWがある。実際、HBOの「ウエストワールド」や「ウォッチメン」、The CWの「SUPERGIRL スーパーガール」や「FLASH フラッシュ」などを制作しているものの、Showtimeの「シェイムレス 俺たちに明日はない」やHuluの「キャッスルロック」、Netflixの「コミンスキー・メソッド」など、資本関係のないプラットフォームにもコンテンツを提供している。系列局は大切にするものの、多方面に売り込みを図っているのだ。
かつて、これらの制作会社は関連会社のためにコンテンツ作りをしていたが、1970年に連邦通信委員会(FCC)が公正取引を確保するためにさまざまなルールを設定。その結果、制作とプラットフォームが異なる現在の体制が定着することになった。だが、90年代にロビー団体の圧力に屈したクリントン大統領が規制緩和を実施。その結果、米AMCというチャンネルで放送中の人気ドラマ「ウォーキング・デッド」を、系列会社のAMCスタジオが制作することが可能になった。

同作をめぐっては、原作者のロバート・カークマンや、企画・制作総指揮のフランク・ダラボン監督(「ショーシャンクの空へ」)がそろって報酬をめぐりAMCスタジオを訴えている。AMCの垂直統合により、クリエイターや出演者にとって競争原理が働いていないことが原因で、AMCで放送しながら他社が制作した「マッドメン」や「ブレイキング・バッド」で同様の法廷闘争が勃発していないことからも明らかだ。
なお、テレビ制作会社が成功を収めるためには、放送局やストリーミング会社に優れたコンテンツを売り込むことが肝要となるが、企画開発に欠かせないのがヒットメーカーの存在である。テレビ制作会社が人気クリエイターを引き付けるために用いるファーストルック契約については、次回解説します。
【今回の業界用語】テレビ制作会社(Television Production Company):テレビ番組の制作を請け負う会社。「映画スタジオ」に対し、「テレビスタジオ」とも呼ばれる。
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