【海外ドラマ用語辞典:第3回】パイロット・シーズンは役者たちにとってのゴールドラッシュ
2019年12月14日 11:00

[映画.com ニュース] ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの業界用語を通じて、ドラマ制作の内部事情を明かします。
年が明けると、仕事のない役者はロサンゼルスに集まってくる。短期契約のアパートを借りたり、知人宅に転がり込んだり、あるいは、車で生活する猛者もいるという。その理由は、パイロット・シーズンだからである。
パイロット・シーズンとは、文字通り、テレビのパイロットが制作される時期のことだ。アメリカのネットワーク局の番組は毎年9月に新シーズンが開始し、翌年5月に終了するサイクルになっている(これを「ブロードキャスト・シーズン」と呼ぶ)。どの局も毎年テコ入れのために番組を入れ替えるので、新番組を準備しておかなくてはいけない。そのため、複数のパイロットを発注し、そのなかでもっとも成功しそうなものを投入することになる。パイロットの制作が行われるのがだいたい1月から4月の時期で、選定を5月に行い、7月から制作を本格的に開始。9月に第1話がデビューという流れになっている。
役者たちがパイロット・シーズンにロサンゼルスに結集するのは、1年でもっとも多くのチャンスがころがる時期だからだ。ネットワーク局は、それぞれ20本前後のパイロットを発注する。アメリカにはネットワーク局が5つあるから、大雑把にみて100本のパイロットが作られる計算になる。そして、ひとつの連続ドラマにレギュラーは5名から8名程度必要だ。制作陣は知名度の高い役者を優先するが、コストやスケジュールの都合で全員をスターで埋めることなど不可能だ。顔が知られた役者はせいぜい2、3人で、残りはオーディションで抜擢することになる。仮に1番組に5名分のオーディション枠があるとすれば、パイロット・シーズンには500名分のチャンスが転がっていることになる。
キャストを埋めるのはキャスティング・ディレクターの仕事であり、大半のキャスティング・ディレクターはロサンゼルスで暮らしている。だからこそ、普段はニューヨークで舞台俳優として活動している役者も、テレビドラマに進出するためには、この時期にロサンゼルス詣でをしなくてならないのだ。

たとえば、「THIS IS US 36歳、これから」にケイト役としてレギュラー出演しているクリッシー・メッツという女優がいる。女優としてなかなか芽が出なかった彼女は、「アメリカン・ホラー・ストーリー」へのゲスト出演でようやく転機を迎えることができたと思ったそうだ。だが、その後も状況は変わらず、貯金も底をついた。そして、いよいよ故郷のフロリダに戻ろうと思っていたところ、「THIS IS US 36歳、これから」のパイロットのオーディションを受けたという。同番組はたちまち米NBCの看板ドラマとなり、すでにシーズン6までの継続が決定。メッツ自身、エミー賞の助演女優賞にもノミネートされている。
別の例もある。米AMCで放送中の人気ドラマ「ウォーキング・デッド」でマギー役を演じるローレン・コーハンは、シーズン8で契約が切れることになっていた。シーズン2からレギュラー出演している彼女は、更改交渉で大幅なギャラアップを要求するものの、AMCから満足できる条件を提示してもらえないまま、契約が切れた。折しもパイロット・シーズンの真っ只中だったため、彼女のもとに出演オファーが殺到。そのなかからコーハンは、米ABCのスパイドラマ「Whiskey Cavalier(原題)」を選択。パイロットは好評で、そのまま全米放送が行われるものの、視聴率が芳しくなく1シーズンで打ち切りが決定してしまった。その後、コーハンはAMCと契約交渉を済ませ、「ウォーキング・デッド」に復帰している。

パイロットへの出演を勝ち取ったからといって、そのドラマが日の目を見るとは限らない。実際、ボツになる可能性のほうがずっと高い。また、放送が決まっても、「Whiskey Cavalier(原題)」のように1シーズンで打ち切られる番組はザラにある。だが、もしそのドラマが「THIS IS US 36歳、これから」のように世界で放送されるような人気番組にでもなれば、出演者は長年にわたり高額収入を得ることができる。
だからこそ、役者たちはロサンゼルスを目指す。かつて黄金を求めてカリフォルニアを目指した人々のように。
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