【国立映画アーカイブコラム】資料保存に必要な「分類」と「修復」という仕事について
2019年11月24日 12:00
[映画.com ニュース] 映画館、DVD・BD、そしてインターネットを通じて、私たちは新作だけでなく昔の映画も手軽に楽しめるようになりました。それは、その映画が今も「残されている」からだと考えたことはありますか? 誰かが適切な方法で残さなければ、現代の映画も10年、20年後には見られなくなるかもしれないのです。国立映画アーカイブは、「映画を残す、映画を活かす。」を信条として、日々さまざまな側面からその課題に取り組んでいます。広報担当が、職員の“生”の声を通して、国立映画アーカイブの仕事の内側をご案内します。ようこそ、めくるめく「フィルムアーカイブ」の世界へ!
映画フィルムが自宅にある人は少ないかもしれませんが、映画雑誌やチラシやポスター、グッズなど、映画に関連した資料――“ノンフィルム資料”なら、お持ちではないでしょうか。
国立映画アーカイブは、収集したノンフィルム資料を京橋本館の地下にある収蔵庫と相模原分館で保存しています。資料の劣化を防ぎ、安全に保存するため、収蔵庫は24時間空調システムで適切な温湿度に管理されています。
ノンフィルム資料は、数が多いだけでなく、実に多種多様です。そんなノンフィルム資料を正しく保存するために必要なことは、スチル、ポスターといったように資料をカテゴリー別に分け、資料番号を振り、資料のコンディションやその他さまざまな情報をデータベース上で管理できるようにする登録作業で、そうした一連の業務を「カタロギング(目録化)」と呼びます。
当館は、独自に開発した「NFAD (National Film Archive Database)」というデータベースに、所蔵品の情報を集積しています。映画フィルムとノンフィルム資料の情報を網羅的に収め、図書館の蔵書検索のようにカテゴリー選択やテキスト入力によって細かに検索できるようになっています。
ノンフィルム資料の「NFAD」への登録は、資料室のスタッフがコレクション単位または資料のカテゴリーごとに担当を分けて行っています。脚本とポスターを担当するのは、2016年から当館で働く佐藤友則さん。
「資料の現物を確認し、資料情報と資料番号を『NFAD』に登録して、現物にも番号を振って、収蔵庫におさめるというのが基本的な流れです」と普段の業務について教えてくれました。
「ポスターが大きく破れていたり、脚本に持ち主の書き込みがあったりすることもありますが、そういう情報も記載します。ポスターは同一の作品でも図柄ごとに別種として扱います。準備稿、撮影稿、完成台本と複数ある脚本の場合も同じで、それぞれタイトルが違うこともありますが、そういうときは監督やスタッフ・出演者名を頼りに、どの作品の資料として登録するかを調べます」
資料番号は、ある程度資料の内容が判別できる仕組みになっています。ポスターならば「2」で始まり、スチルは「1」など。それ以外にも日本映画か外国映画か、またサイズなどによって番号が区分けされています。
「NFAD」(フィルムセンター時代はNFCD)は、98年に稼働を始めた当初、ノンフィルム資料は“ポスター”“スチル写真”“脚本”、映写機やカメラなどの“技術資料”の4つのカテゴリーに分けて整理していくことからスタートしました。
これまで蓄積されていた資料の整理がある程度進んだ段階で、新たに、プレスシートなどの宣伝資料の整理に着手し、12年に「NFAD」に新たな概念として“プレス資料”というカテゴリーを設け、5つのカテゴリーに区分けして整理してゆくという体制になりました。
それでもそこからはみ出てしまう「ユニーク」な資料も沢山あります。黒澤明監督作品でおなじみの俳優・志村喬さんがプライベートで使用していた和傘や下駄、それから「生きる(1952)」の撮影終了時に関係者に配った灰皿などがそれにあたりますし、7階展示室の常設展「NFAJコレクションでみる 日本映画の歴史」で展示中の、田中絹代さんご愛用の文具もそうです。他に、「カルメン故郷に帰る」(51)のカラー・フィルム付きしおりなどといった展示品もあります。
こうした個性的な資料も最近では、「NFAD」に登録できるようになりました。18年度に、あらゆる資料に対応できるような概念を持つ新たなカテゴリーを「NFAD」に設けたのです。とはいえ、未だ試運転の状態で、これからさらに使いやすくなるよう改善していきます。
同じく、近年前進したノンフィルム資料に関わる事業が、修復です。本格的に取り組めるようになったのは、フィルムセンターから国立映画アーカイブに生まれ変わる直前の17年度のことでした。
膨大なノンフィルム資料に歴史的・美術的価値を考慮した優先順位をつけ、資料の特性に応じた修復の専門業者を選ぶというプランニングをするのは資料室の紙屋牧子さんです。
「常設展でご覧いただける香川京子さんの写真アルバムも、最近修復を施しました。ご寄贈時はアルバムの台紙の酸性化が進んでいたため、写真を一度台紙から全て剥がし、紙が劣化をしないように脱酸処置を施し、周りも綺麗に補修してから貼り戻してもらいました。実は写真とアルバム本体は別に保管したほうが、資料の長期保存性は担保されます。ですが、それでは香川京子さんご自身が所有されていたときの状態とは異なってしまいます。資料によっては、できるだけオリジナルの状態を保つという選択をすることもあります」
それぞれの資料によって、適した修復の工程は異なります。多くの場合、しわを伸ばすフラットニングや酸性劣化を防止する脱酸処置、和紙などを使った裂け目の補修が行われますが、その方法も資料の性質によるのです。
「資料の種類によって修復を依頼する専門業者を選んでいます。口コミもありますが、自分で探して声をかけることもあります。当館で資料を実見してもらい、修復方法を提案してもらいます。例えば、脚本や書籍のような文字情報が中心の資料だとDAE法(乾式アンモニア・酸化エチレン法)という一度に大量に脱酸化する方法をとりますが、この手法は、ごくまれに資料の色調が変わる場合があると言われています。ポスターのような色調がとくに重要となる資料の場合は、一点一点に特殊な溶液を濾紙上で噴霧し、濾紙に挟んで重しを置き乾湿させる、という作業を数十回繰り返す脱酸処置を施します。昨年度修復したソビエト映画のポスターは、美術的価値の高い紙本の修復で実績を上げている修復士の方に依頼しました」
常設展には、「現在、修復中です」と掲示され、展示品が不在の場合があります。そうした展示品は、紙屋さんが解説してくれたような工程を経て、より長く、安全に保存されるために生まれ変わる作業の最中なのです。
カタロギング担当の佐藤さんは、ノンフィルム資料の保存へのやりがいを、こんな風に話してくれました。
「例えばコレクターの方が大切に収集してきたコレクションの寄贈を受けるときは、古書店やオークションで売ったりせず、整備された環境で半永久的に保管されることを期待して当館に寄贈されるので、その資料のアーカイブに携われることは誇りに思います。フィルムが現存していない作品でもポスターは残っていることがありますし、現在の映画でもこの先その作品の記録媒体が残らないようなことも考えられるでしょう。ポスターは上映の記録としても大きな価値があります。ノンフィルム資料の収集は、映画史を構築していくための未来に向けての大切な仕事でやりがいを感じます」
保存とは、資料をひとつの場所にじっとしまっておくだけの活動ではありません。その背景には、カタロギングから修復まで、当館の職員一人一人や、外部のエキスパートの方々など、さまざまな人の取り組みがあるのです。
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