草間彌生の知られざる過去に迫った米国人監督「どんな逆境にあっても前進し続ける力に感動」
2019年11月22日 14:00
[映画.com ニュース]世界的に著名な前衛芸術家・草間彌生氏の半生を追ったドキュメンタリー「草間彌生∞INFINITY」が、11月22日に開館する渋谷PARCO内のミニシアター「WHITE CINE QUINTO」のオープニング作品として、公開された。第2次世界大戦下の日本での生活、単身アメリカへ渡った後に遭遇した人種や性差別、そして自身の病など、さまざまな困難を乗り越えて、70年以上にわたり芸術にすべてを捧げたアーティストの苦悩と功績、知られざる過去を映したアメリカ人女性監督、ヘザー・レンズが来日し、作品を語った。
私は大学で美術史とファインアートを専攻しており、1990年代初頭に彼女の作品に初めて出合いました。彫刻の授業で写真を見たのです。今では信じられないかもしれませんが、当時草間さんに関する本は1冊しか出版されていなかったのです。それを手に入れ、もう少し彼女のことを知ったときに、アメリカの美術界への彼女の貢献が正しく認識されていないと思いました。それが、この映画を作りたいというモチベーションになったのです。草間さんにずいぶん前に与えられるべきだった注目や成功、彼女の功績に光を当てたいという思いで作り始めた映画でしたが、途中で製作資金が尽きたりと、完成までに17年という時間がかかり、その間に草間さんの知名度はどんどん上がっていきました。
私もアートとして短編映画を作っていたので、草間さんにメンターになってもらって、弟子入りができないかと考えたほどでした。それは叶いませんでしたが、長い間彼女に対する思いは消えることなく、映画作家になろうと決意した時に彼女のストーリーを綴りたいと思いました。多くの人に彼女の人生の物語を知って欲しかったのです。ベトナム反戦のパフォーマンスアートで、アメリカのメディアは彼女のセンセーショナルなことだけを取り上げ、彼女の歴史背景を掘り下げることをしなかったのです。草間さんは子ども時代に第2次世界大戦を経験し、だからこそあのようなパフォーマンスアートにつながった。彼女のストーリーを綴る時に、あの時代の息吹を吹き込むことで、より皆さんに伝わるのではないかと思ったのです。
とてもエキサイティングな経験でした。すでに数年間、彼女に関するリサーチをしていたので、対面する準備として、あいさつや90度のお辞儀など日本式の挨拶を覚えて準備万端で臨みました。しかし、アトリエのエレベータでばったり出くわしてしまい、彼女が西洋式に挨拶をしてくださったので、驚きました。草間さんは英語も話されますが、日本語のほうが自分の思いを伝えられるから、と取材は日本語で行いました。最初のインタビューが終わったあと、「人生でいちばん幸せな日でした」と申し上げたら、「私もよ」と言ってくださったのです。もちろん、私は草間さんが出会われた大勢のなかの一人で、寛容な心でそう言って下さったと思うのですが、私にとってマジカルな日だったのです。
そのようなプライベートに関するエピソードを作品内に入れ込むことについて、なんの禁止もされませんでした。リクエストされたのは、最近の作品も映して欲しいということでした。しかし、カタログのように作品を見せていくことは難しく、私は物語を前進させることが大事だと思いました、何もかもを詰め込んで、大切なことが薄くなってしまうよりは、ストーリーとして、観客がもっと見たい、もっと知りたいと思ってもらえるような選択をしました。
才能あるアーティストであり、時代の先駆者であり、アーティストになるという夢をかなえるために、1957年に単身女性ひとりでニューヨークに渡る、そのことがすごいと思うのです。そして、大変な壁を乗り越えてきた、その姿に感服します。粘り強さをお持ちですし、どんな逆境にあっても前に進み続ける力に改めて感動しました。多くの苦悩を抱えながらも、芸術家として成功を得ていること、自分を愛してくれるファンがたくさんいることをご本人も幸せに思ってらっしゃるのではないでしょうか。
答えになっているかはわかりませんが、東洋的なものを西洋に持ち込み、西のものを東に持ち込んだ人物だとも言われています。間違いなく国際的なアーティストのさきがけの一人です。国の違いを超えるような普遍的なアピール力を持っており、世界中にファンがいるのではないでしょうか。このドキュメンタリーでは、アメリカ滞在中のみならず、その前後もきちんと描きたいと思いました。彼女のオリジンにはリスペクトを払いつつ、アメリカでどんな影響があったのか、インターナショナルなアーティストとして見せたかったのです。
「草間彌生∞INFINITY」は、WHITE CINE QUINTOほか全国順次公開。
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