ギャスパー・ノエ、新作「CLIMAX」は「アルコールの恐ろしさを啓蒙するための映画」

2019年11月1日 21:00


問題作を作り続けるギャスパー・ノエ監督
問題作を作り続けるギャスパー・ノエ監督

[映画.com ニュース]暴力、大胆な性描写…その過激な作風で、物議を醸すギャスパー・ノエの新作「CLIMAX クライマックス」が公開された。何者かによってドラッグが混入された酒により、酩酊した若者たちの阿鼻叫喚の一夜を、エレクトロ音楽の名曲に乗せ、一流ダンサーたちのパフォーマンスとともに見る者に“体感”させる、危険なパーティ映画だ。第71回カンヌ国際映画祭監督週間で賛否両論を巻き起こし、芸術映画賞に輝いた。約3年ぶりに来日したノエ監督に話を聞いた。

思わず目を背けたくなるような映像を次々に生み出す鬼才の語り口は驚くほど穏やか。日本ではR18+指定ではあるが、「思春期の子供たち向けの映画です(笑)。あらかじめ彼らたちに、アルコールがいかに恐ろしいかを啓蒙するための映画なのです」と開口一番“大真面目”に語る。

数年前に知り合ったモダンダンサーたちのパフォーマンスに魅了され、「ダンサーによるダンスをメインにした映画をつくりたかった」と今作製作のきっかけを明かす。総勢28名の出演者のうち、主演のソフィア・ブテラら5名以外は各地で見出したプロダンサーを起用した。物語は実際の事件を基に、ノエ監督が大きく脚色し、演技経験のないダンサーたちによる即興の会話劇と、その身体能力をフルに活かした目くるめく狂乱を実験的な手法を用いて映像化した。

「昔読んだ記事が頭をよぎって、若者たちが平常心を逸していくという流れを撮りたいと思いました。フィクションとして、ダンスを基に話を撮っていこうという話になりましたが、どんなダンスを取り入れるかということは当初、全く頭にありませんでした。ドラッグの混入は僕の脚色で、犯人は誰かということを明確にせず、ダンサーたちの変質を撮りたかったのです」

前半はとりとめもない会話、後半は衝撃のクライマックスに向け、ボルテージを加速させていく音とダンス、理性を失った登場人物たちを捉える2部構成となっている。「前半の会話でシナリオに書かれているものはひとつもありません。基本的に今回の作品は順撮りで進めました。そうすることによって、登場人物たちの心の変化と演じている人たちの変化がリンクしやすいのです。最初のダンスは振り付けを入れて撮りましたが、それ以外のダンスは全て彼らに任せました。脚本はないので、僕はカメラの後ろで『僕を笑わせてみて』なんていう指示をするのです。彼らが勝手にストーリーを作って面白い話をしてくれて、あるシーンでは、僕が大笑いした声が入ってしまって、後からそれを取り除く作業が大変でした」と振り返る。

酩酊状態に変化していく人間の姿を映していく一方で、文字を使った視覚表現がアクセントになっている。「ゴダールが始めたという人もいるけれど、あれは無声映画の時代に始まった手法で僕もよく使っています。雑誌や新聞の見出しは太文字で、目立つように書かれている。それを映画のビジュアルで使いたかった。タイポグラフィは『エンター・ザ・ボイド』でも一緒に仕事をしたフランス生まれの日本人グラフィックデザイナー、トム・カンに作ってもらった。タイトルロゴも彼の仕事。スタッフロールも、スタッフの持つ個性に合わせて彼が文字を作ったんです。素晴らしい感覚を持ったデザイナーです」

世界的にポリティカルコレクトネスを追求する動きが強くなっている昨今だが、そんな中で挑発的な作品を作り続けるノエ監督、そして芸術表現に対して寛容なフランスでも、風当たりの強さを感じることがあるのだろうか。今作「CLIMAX」では、ノエ監督の過去作に描かれたような性表現はないが、今年のカンヌ映画祭に出品され、性的な場面が長時間にわたって続くことから非難を浴びたアブデラティフ・ケシシュ監督の「Mektoub,My Love: Intermezzo」を例に挙げて、こう話す。

「あの映画にポルノ的な要素はなくて、日常的な若い男女の営みに過ぎない。なぜ、日常にある喜びのようなものを見せただけなのに、なぜそんな風に非難されるのかが僕はよくわからない。少なくとも、あの物語の中の女の子は、男の子よりも強い立ち位置にある。にもかかわらず、なぜポルノ的だと言われてしまうのか。ただ、カンヌは特殊な場所。アルコールを飲みながら映画を見る一方で、そこで少しでも知的な発言をしなければいけない、そういう強迫観念を持っているんじゃないか」

「僕は社会そのものがプレッシャーを感じているような状況だと、この20年で変化を感じています。特に、性的描写に関してはいろいろと規制が強まっているけれど、実際、子供たちがネットで簡単にポルノに触れられる時代。性がそういった圧力によって歪んできていると感じます。その一方で、人間が起こす残酷なこと、戦争、事件など、性より目を背けたくなるようなことには、寛容になっている。人間の残酷さには寛容で、ポルノはダメ、一体何に対して寛容と厳しさが変化したのだろう」と疑問を呈する。

そして、「多くのカップルが人生の楽しみと捉えてセックスを実践していると思う。それを良くないことと非難する、最近のヨーロッパ社会は精神分裂気味だと感じています。性的な営みを、正しい、正しくないものと捉えるのは危険だと感じるし、子どもたちが性を悪いものとして捉えるという弊害が出てくるのでは」と持論を述べた。

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