フィリピン、ラオスの女性監督がホラー映画、各国の女性監督の立場など赤裸々トーク
2019年10月30日 13:00
[映画.com ニュース] 第32回東京国際映画祭の「CROSSCUT ASIA #06 ファンタスティック!東南アジア」の企画で、「ホラー女子会の秘かな愉しみ」と題したシンポジウムが開催され、フィリピンのアントワネット・ハダオネ監督とシーグリッド・アーンドレア P・ベルナード監督、ラオスのマティー・ドー監督がアジアのホラー映画について意見交換した。
「ホラーが大好き」というドー監督は、「ホラー映画は非常に広がりがあるもの。テーマを拡大解釈し、別な風景を見せられ、ドラマやドキュメンタリーだと説教くさくなるものがジャンル映画の形だと伝えやすくなるのです」とその理由を語り、影響された監督としてギレルモ・デル・トロ、ダーレン・アロノフスキー、エドガー・ライトらの名を挙げる。
数多くのホラー映画に出演した端役女優のモキュメンタリー「リリア・カンタペイ、神出鬼没」を本映画祭で上映したハダオネ監督。ホラー映画そのものはそれほど得意ではないそうだが、「日本の『リング』は心に残っています。私の作品に出てくるリリアはフィリピンのホラークイーンです。フィリピンのホラー映画は、怖くて面白い作品が人気があります」と話す。
ベルナード監督は、ホラーは「話をするだけで怖くなってしまうので見ない」と言うが、最新作「それぞれの記憶」では、人間心理の恐ろしさを描いた。「これまでラブコメなど、ロマンティックなものを描いてきましたが、今回サイコスリラーを追求しました。人間が一番好きなものを失うこと以上に怖いことはないと思う。何かが人生から欠けるということが重要」と持論を述べた。
ドー監督はベルナード監督の意見を受け、「ホラーでは主役を殺すことができるというコンセプトがいいと思います。何より怖いのは人間。モンスターより人間のほうが怖いと思います。私も喪失感を描けるホラーが好き。ロマンスやコメディは文化的越境が難しいことがありますが、痛み、喪失の感情は世界共通だと思うのです」と同調した。
また、男女平等が叫ばれる昨今、各国の映画界での状況を問われると「フィリピンにはインディペンデントでも商業的な作品でも女性監督はたくさんいます。男女格差が問題視されることはそれほどありませんが、ラブコメなど軽いものを作ると思われがちなところがあるかもしれません。しかし私はそれが悪いとは思いません」(ベルナード監督)、「ハリウッドでも女性監督の立場は大変なようですが、フィリピンにいるのは恵まれていることだと思います。男性、女性、LGBTへの差別偏見もなく、作る機会を与えられており素晴らしいです。大量生産的になって、開発に時間をかけられないのが短所かもしれませんが、作品を作れる機会が多いというのは良いことだと思います」(ハダオネ監督)と、フィリピンの監督陣は説明。
ラオス初、唯一の女性監督のドー監督は「私がラオスの映画業界の25%を担っていますが、ハリウッドとは規模が違います。それでも映画を作るのは難しいです。ラオスは政府の公的なファンドがなく、投資家もいません。海外のファンディングに申し込もうとすると、ラオスでラオス語の映画を作りたくても、私がアメリカのパスポートを持ち、ラオス育ちではないゆえに、アジア人の要素が足りないと言われることも。しかし今、世界的に女性の映画の作り手が必要、女性の視点が見たいという意識になっているので、今この時代で映画を作れて幸運だと思う」と語る。女性であることに不公平さを感じたことについて、「男性の監督が大声を出して、機材を蹴ったり、予算を大幅に超えて作ると言うと、『ああ、アーティストだ』と言われるのに、私がやるとビッチだと言われます」と明かす。
それを受け「フィリピンは、ラブコメ、ロマンス系映画が強い。自分のやり方でやってもそれほど問題視されることはないけれど、金イコール力といわれる背景はある」とハダオネ監督がコメントすると、ベルナード監督は「あなたはブロックバスターの監督だから、何を言っても許されるようなところがあるのよ」とチクリ。「私の『それぞれの記憶』の予告を見た男性監督に『あなたが撮ったの?』と言われた。私は新人ではなく、これまで何作も作っているのに、女性監督がジャンル映画を撮ると言うことについての偏見はあるのかもしれません」と自身の経験を話す。
アメリカで映画製作を学んだドー監督は「ジャンル映画は、どの映画でもそのジャンルで活躍しているのは男性ばかり。まるで“ソーセージパーティ”みたいになっている。でも、ジャンル映画のコミュニティは小さく、男性ばかりのなかでも温かく迎えてくれるので、臆せずに飛び込んでいって欲しい」と女子会さながらのトークを交えながら、3人は映画界のさらなる男女平等、フェアな賃金のありかたなどについて語り合った。
第32回東京国際映画祭は、11月5日まで開催。
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。