村上春樹作品の翻訳者を追うドキュメンタリー監督が来日 大学で特別講義
2019年10月18日 15:35

[映画.com ニュース]20年以上にわたり村上春樹作品の翻訳を手がけるデンマーク人翻訳家メッテ・ホルム氏を追ったドキュメンタリー「ドリーミング村上春樹」のニテーシュ・アンジャーン監督が来日し、東京・世田谷区の昭和女子大学で開催された特別講義に参加。講師や学生からの質問に答えた。
「初めて読んだ村上作品は『海辺のカフカ』です。今までにない、懐かしい感覚を覚えました。人生で最初に魅了された本はドストエフスキーの『罪と罰』でしたが、村上さんの作品にはそれとは別の宇宙的な感覚がありました。その世界観に自分が入り込むような感覚です」と20歳で村上氏の作品に出合い、映画監督として活動する以前に、作家を目指すきっかけとなったと明かす。
デンマークでインド系移民家族に生まれ育ったアンジャーン監督は、2014年にデンマークの永住権を放棄し、祖国インドに帰国する父親を題材にしたドキュメンタリーで監督デビュー。「ずっと写真も撮っていたので、撮影にも興味を覚え、作家になる前に父の映画を作りました。私はインド系のデンマーク人で、英語も話しますし、いろんな言語が頭の中に浮かぶので、映像の方が正直なものを表せると思ったのです」「映画も小説も言語にかかわる部分。村上作品から、ストーリーテラーとしての影響を受けました」表現方法のひとつとして映画を選んだ理由を説明した。
今作では、村上作品ゆかりの場所を訪れるメッテに同行し、日本での撮影も敢行した。「12日間の滞在で東京、神戸、京都で撮影しました。あらかじめ計画して撮った部分はつまらないものになってしまい、偶然撮れた部分が面白いものになりました。言葉が分からない国での撮影なので、人間同士の距離感や感覚に注目しました」と振り返る。
その発言を受け、「たまたま撮れたものが良かった、その偶然を捉える嗅覚はどのように鍛えるのか?」と問われると「シンガポールで勉強していたとき、日本、韓国、フランス人の友人がいて、それぞれ英語で自分が言いたいことが言えないという場面がありました。そこで、母語で言ってみてと頼んだら、何を伝えたかったのかなんとなく分かった、その感覚が残っています。人間のコミュニケーションは言葉以上のものが大事。アイコンタクトだったり、言葉以外の、一緒にいることで感じられるコミュニケーションがある。映画は言葉で伝えることもありますが、目で見て感じることができるものなのです」と回答した。
そして、「この作品は現実と言語の中間点を表現しており、映画としては挑戦でした。北欧からは北欧の映画として、日本からは日本映画として見てほしい。北欧から見ると、日本文学と村上に魅せられた女性を撮った映画、日本から見ると村上春樹、日本文学の翻訳者の映画というふたつの視点です。文化、言語の壁を越えて交流することはとても大事。私自身、村上春樹という外国人に影響され、自分のキャリアができて、今、村上さんの国でこういう話をすることはとても面白い」と述懐。「メッテという翻訳家の目を通して、村上作品の幻想的な世界観を伝えたかった」「翻訳の作業だけに限らず、村上春樹の世界観に入りながら翻訳を進めるメッテの姿、それを映像で感じ取ってもらえたら」と学生に呼びかけた。
「ドリーミング村上春樹」は10月19日から新宿武蔵野館ほか全国で公開。
(C)Final Cut for Real
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