日本&ミャンマー合作「日本の娘」デジタル復元版を“見逃してはいけない”理由とは
2019年10月16日 12:00

[映画.com ニュース] “ミャンマー映画の父”と称されるニープの監督・主演作「日本の娘」をご存知だろうか。日本とミャンマー(当時はビルマ)初の合作映画となった同作のデジタル復元版が10月26日、東京・国立映画アーカイブでプレミア上映を迎える。「その情報は初耳だ」という映画ファンに進言したいのは「この機会を決して逃してはならない」ということ。「ミャンマー、日本、それぞれに多様な価値を持っている貴重な作品」と語る同館の主任研究員・冨田美香氏が、劇中の見どころ、復元作業の裏側を明かしてくれた。
ビルマ人飛行士の兄弟(ニープ、ティンペー)が、東京とラングーン(現ヤンゴン)間のノンストップ飛行に挑むために来日。兄は日本人・恵美子(高尾光子)と恋におち、飛行計画と兄弟の仲に暗雲がたれこめるさまを描き出す。今回の上映は、ユネスコ「世界視聴覚遺産の日」(10月27日)を記念したイベントとして実施され、「日メコン交流年2019」と2020年に控えた「ミャンマー映画生誕100年」を祝している。
35年6月10日、ビルマ初の観光団として、のちにビルマ首相となる団長・ウーソーらと来日を果たしたニープ兄弟。日本の紹介を目的とした本作は、後に東宝となるP.C.L.との提携で同年の9月11日に本読みを開始し、当時の貴重なロケ映像を収め、10月に完成。本国で公開され人気を博したが、日本では未公開となっていた。やがて92年に、東京国立近代美術館フィルムセンター(現:国立映画アーカイブ)でプリントが発見され、「にっぽんむすめ」のタイトルで上映された。
ミャンマー映画は、英領ビルマ時代の20年から製作されているが、冨田氏によれば「気候や政権の歴史的変遷などもあって、残存率が極めて低く、例えば白黒の劇映画は12本しか残っていないそうなんです」とのこと。さらに、今回のデジタル復元を経て実現した大スクリーンでの上映は「ミャンマーの人々にとっては、映画を通して“英領ビルマ時代の1935年当時の文化と歴史が甦る”“自国のルーツでもある文化と歴史と新たに出会う”ということでもあり、本作は貴重な文化遺産としての価値があるんです」と説明する。では、日本にとっての“価値”とはなんなのだろうか。

冨田氏「当時の羽田飛行場、目黒雅叙園、自動車レース、丸ノ内・銀座、芦ノ湖などのロケーションが多用されており“今では失われている当時の景観が甦る”“今までなかったような貴重な映像がたくさん入っている”という点で価値があります。英領からの独立を意識していたビルマ側の日本観と、そのビルマにアピールしようとしていた日本側の意向も作品にみてとれるという点が、両国の戦前、戦中にかけての歴史・文化を語る一次資料として非常に高い価値を持っていると思います」
劇中で注目すべきポイントは、多数ある。羽田飛行場を主な舞台としたシーンでは、珍しい飛行機の離着陸や飛行の様子が映っているだけでなく「ノンストップ飛行に出立するシーンは圧巻。集まった大群衆が、日の丸とビルマ独立軍の象徴と言われている孔雀の旗を振って声援を送り、ニープ兄弟はその大歓声をうけて、機体に日の丸と孔雀マークを描いた飛行機で飛び立っていくんです。よくこれだけの人を集めて撮影したなと思うくらい。この映画の中では突出して大がかりなシーンなんですが、これは、当時のビルマの観客にとっては、独立に向けての力強い声援と受け取ったであろう心を熱くする重要なシーンだと思います」と分析している。
さらに、国内外のレースの断片映像で構築された自動車競走大会のシーンでは「国内の自動車レースは、本作の翌年に多摩川スピードウェイができてから本格化したので、本作に写っている国内レースの断片映像は非常に貴重なもの。自動車レースにご関心をお持ちの方に、見ていただきたいですね」。目黒雅叙園をとらえた映像には「今では失われてしまった当時の見事な螺鈿細工と彫り出しの玄関に目を奪われます。当時の様相を残している現雅叙園の一部は、東京都指定有形文化財になっていますが、その原型である当時の玄関は、伝統工芸、文化財の分野でも貴重な映像と思われます」という。

冨田氏「作品全体としては、モダン都市の東京を舞台に、建築、交通、衣服、余暇の過ごし方など、ニープ兄弟と日本女性像にも、西洋近代的な要素と、東洋的・古典的な要素の両方が微妙なバランスで描かれていて、ニープとヒロイン高尾光子とのラブロマンスを展開させていくうえでの重要な要素にもなっているところが見どころです。背景には、日本をモデルに独立を意識していたビルマ、そのビルマに対する日本の意識がうかがわれ、そういう観点からも面白いですね」
国立映画アーカイブのデジタル復元の信条は“オリジナルの姿”を取り戻すこと。ゆえに、オリジナルを超えるような「加工・創造はしなかった」ようだ。「わかりやすい例でいえば、あるカットの冒頭で、初期トーキーならではのスタートを示す掛け声が、普通に鑑賞していると気が付かない程度の極めて小さい音で入ってしまっていることがわかりました。これは製作会社が行う“復元”であれば消したくなる音かもしれません。けれど、私たちはこれは残す判断をします。また、復元の元素材としたフィルムには同じシーン内でも音質やボリュームが著しく変わったり、音の記録方式自体が違っていたり、画郭も違うところがあるなど、オリジナル、素材のどの段階でこうなったのか判別がつかない部分もありました。それらも、あまり作品鑑賞の妨げにならずに、元素材の状態がどうだったかがわかる程度に残っています」

「IMAGICA Lab.」で7~9月に行われたデジタル復元作業は、35ミリデュープネガからデジタル化し、2K解像度での画像修復、グレーディング、音声のノイズ除去などを実施。復元版の冒頭にはデモンストレーションの映像が流れるため「その動画を見ていただくと、今回のデジタル復元がいかに大変だったかを良くわかっていただけると思います」と冨田氏は話す。
冨田氏「冒頭のシーンでは、画面の傷消しだけでなく、フィルムの劣化や縮みなどから生じるピントのぶれ、コマ単位の細かな揺れなどの微修正、音質・ボリューム・ノイズの調整、グレーディングなど、全てにわたってコマ単位の細かな修正を組み合わせて行い、安定した画と音を再現しています。私はこのデモンストレーション映像を見た時に、気の遠くなるような作業をしてくださったことを実感し、この短期間に『よくここまで』とIMAGICA Lab.さんに心から感謝しました。おかげで全編にわたり、ニープと高尾光子の美しい黒髪の艶やかさ、布地の質感から光沢まで感じられる民族衣装の魅惑、飛行機や競争車の重厚感ある鋼鉄のモダンさ、テーブルのグラスや灰皿までが輝きを放つ小道具の美しさなど、白黒映像特有の魅力が、細部にわたって発揮されています」

「日本の娘」デジタル復元版の特別上映会(共催:文化庁)は、10月26日に国立映画アーカイブの長瀬記念ホールOZUで開催(正午および、午後4時スタートの全2回上映)。なお、午後1時50分より、俳優で監督のテイン・トゥット氏、「Save Myanmar Film」プロジェクトディレクターのオッカー氏が登壇するトークイベント「『日本の娘』――映画遺産の救済と保存にむけて」(仮)が行われる予定だ。
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