カトリーヌ・ドヌーブ×ジュリエット・ビノシュ「真実」で果たした“運命の共演”
2019年10月13日 12:00
[映画.com ニュース] 是枝裕和監督が初めて国際共同製作で手がけた「真実」への期待値は、日を追うごとに高まっていただろう。第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを獲得し、第91回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートを果たした「万引き家族」に続く、是枝監督の“次の一手”。その中核を担った大女優カトリーヌ・ドヌーブとジュリエット・ビノシュは、未知の冒険へと旅立った是枝監督を後押ししながら“運命の共演”を楽しんでいたようだ。(取材・文/編集部)
今回のインタビューは、ビノシュの一言からスタートすることになった。ドヌーブに先駆けて取材部屋に到着したビノシュは「先に始めてしまいましょうよ。その方が話が早いでしょ?」とほほえみかけてくれたのだ。彼女の粋な計らいに感謝しつつ、まずは是枝監督の印象について話を聞いてみた。「是枝監督の映画は、常々拝見していましたし、それらの作品には、とても知的なものを感じていました。登場人物たちに等しく愛を注いでいて、(劇中で描かれる)人間関係が感動できるものです」とビノシュは口火を切った。
ビノシュ「私は、彼を劇作家のアントン・チェーホフに似ていると思っていました。チェーホフの戯曲において描かれる登場人物は、『善か、悪か』『黒か、白か』ということではなく“そのままの姿”で観客に愛されたり、あるいは、怖がられる。そういった世界観が似ていると思ったんです。是枝監督の人間に対する視点には、寛容の精神を感じとることができます」
ビノシュが答え終わるやいなや、ドヌーブが温かな笑みを携えて、取材部屋へと入ってきた。とりわけ歩調を早めることもなく、優雅な足取りでビノシュに近づくと、2人は“信頼”の二文字が浮き彫りになるようなハグを交わしてみせた。大女優の風格を漂わせるドヌーブ。彼女は、是枝監督をどのようにとらえていたのだろうか。
ドヌーブ「彼の映画はこれまでにもたくさん拝見してきましたが、独自の世界観を持っている方なのだなと思いました。その独自性というのは、今回の『真実』のなかにもきちんと表れています。今まで手掛けた作品でも“家族”というものに視線を向けられていて、友人だったり、娘だったり――その関係性に力を入れられている方なんだなと。『彼の世界観の一員になりたい』と思っていたんです。今回一緒に仕事をさせていただきましたけど、まさに自分が想像していた通りの世界観でした」
「真実」は、ドヌーブとビノシュの初共演の場でもあった。ドヌーブは「(ビノシュを)知っているようで知らない、難しい関係」だと語る。「なぜなら、今までは撮影現場ですれ違う程度で、そこまで面識があるほうではなかったんです。でも、彼女が役者を始めた頃の作品もたくさん見ていましたし、何より私が好きなアンドレ・テシネ監督の作品にも数多く出演されています。だから、知っているような感じになっていたのかもしれませんね」と念願のタッグとなったようだ。一方、ビノシュにとって、ドヌーブとの共演は夢見心地のひと時だった。
ビノシュは子どもの頃に見た「ロバと王女」で、ドヌーブの美しさ、とらえがたい存在感に感銘を受けていた。「彼女が演じていたお姫様が白馬の王子様と恋に落ちるのですが、それがきっかけで“世の中には白馬の王子様がいる”というイリュージョンを信じてしまいました。その幻想を打ち砕くのに、数年もかかってしまったんです。劇中の歌もよく歌っていました。それにお菓子の中に婚約指輪が隠されている場面があるんですが、本当にお菓子の中には指輪が隠れていると思っていたんです(笑)」と告白。そして「私は、フランス人女優なんですが、外国で芝居をすることが多かったんです。それは良いことなんですが、一方で『自分はフランス映画界に属していないんじゃないか』というフラストレーションを抱えていた時代があったんです」と明かしてくれた。
ビノシュ「でも、今はフランスを中心に活動するようになりました。ある意味夢を見ていたような、フランスの映画界を担う映画人と仕事をする機会にも恵まれている。今の私は、映画人としての“第2の人生”を享受しているようなイメージ。カトリーヌも、フランスで共演することができて光栄な方のひとりなんです」
ここで思わぬエピソードが飛び出した。「一時期、占い師に助言を求めて会っていた頃があるんです。色々話をしていたら、占い師の奴から『そんなことを言っても、あなたはカトリーヌ・ドヌーブじゃないんだから』と言われたんです。その時はムッとしましたけど……今なら言ってやりたいですね。『ついにカトリーヌ・ドヌーブと共演したぞ』って(笑)」(ビノシュ)。導かれるべくして実現した“運命の共演”――高らかな笑い声を響かせたドヌーブは「私もジュリエットとぜひ共演したいと思っていましたよ」と応じてみせた。
ドヌーブは、是枝演出について「まったく違和感がなく、とてもやりやすかったです」と手腕を称える。今回の役どころは、自伝本を出版した国民的大女優ファビエンヌ。自らの職業でもある“女優”を演じるうえで、何を心掛けていたのだろうか。
ドヌーブ「映画では、自分ではない女優を演じつつ、なおかつ劇中劇で“演じている”女優をも表現しなくてはいけないわけです。それは他の映画の役どころとは、まったく異なるもの。どういう風に撮られ、どういう風に編集されるのか――最終的な仕上がりは、完成した段階でしかわかりませんが、とにかく(向き合うべき)シーンを“真剣に演じる”ことに徹していました」
母ファビエンヌとの確執を抱える娘で脚本家のリュミール役に挑んだビノシュは、是枝監督から「(自分たちから)学ぶ意識を感じた」という。
ビノシュ「彼が日本語で書いた脚本が、果たしてフランスでそのまま通用するのか。その点を探るために、オープンな精神で臨んでいたと思います。例えば、あるシーンの冒頭のセリフが『すみません』という言葉から始まっていました。私たちにとって、それは謝罪の言葉。その言葉から会話を切り出すというのは、どうしても馴染めなかったんです。日本では誰かに話しかける際や、自分の意見を表明する時には『すみません』と会話を切り出すということを知ったんですが、やはりそれでは通用しないんです。フランスでは、謝罪の言葉から話を始めるということはあり得ないので、その部分はカットしてもらいました」
ビノシュの言葉に耳を傾けているなかで“カチッ”と音が響く。ふとドヌーブを見ると、劇中のシーンさながら煙草をくゆらせていた。紫煙の向こう側、足を組みながらリラックスした表情を浮かべるドヌーブを見ていると、まるでこの場が映画の一場面かのように思えてくる。最後に投げかけた「第76回ベネチア国際映画祭での反響は?」という質問にも、この煙草が関わってくるとは思いもしなかった。
ドヌーブ「とても良い反応でしたよ。観客と一緒に映画を見ることができて、嬉しかったです。開催地がイタリアということもあり、とても陽気でにぎやかな雰囲気。観客の皆さんも喜んでくれていたと思います」
ビノシュ「(ドヌーブの感想に)付け加えることはありませんが――カトリーヌと一緒に煙草を吸ったんですよ。カトリーヌから『煙草を吸わない?』と言ってもらえたことが、本当に感動しました。それと、女優が最初に完成品を見る時は『自分はどうなんだろう』と疑問を抱きながら見てしまうので、欠点に着目してしまうんです。だから、集中して見ることができない。でも、2回目の鑑賞は、そういう疑問を超えて、ひとりの観客として見ることができます。登場人物に感情移入ができるので、観客と一緒に楽しむことができました」
ドヌーブ「確かにね。2度目に見た方が理解が深まる。とても良かった」
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