現代中国を見つめるジャ・ジャンクーが社会のアウトサイダーを描く理由
2019年9月5日 14:00
[映画.com ニュース] 第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作で、中国の名匠ジャ・ジャンクー監督の最新作「帰れない二人」が9月6日から公開される。さびれた炭鉱の町で出会い、運命的に惹かれ合ったにもかかわらず、離ればなれになってしまった男女の17年の歳月と、北京五輪決定と開催、三峡ダム完成、四川大地震など21世紀の激動の中国を、総移動距離7700キロメートルという壮大なスケールでの旅路と共に描き出すメロドラマだ。来日したジャ監督に話を聞いた。
今作は2001年からを描いた映画ですので、その当時の雰囲気を出る町を選びました。この10数年で石炭産業が斜陽になってきました。そして、いろんな工場が閉鎖され、大量の失業者が生み出されました。ビンはもともとは機械工場で働いていましたが、失業し、あの状態になっている。不景気になった大同の荒涼たる雰囲気が、時代とマッチしたものなのです。石炭産業が廃れることによって、街も荒廃し、さまざまな失業者が溢れ、暴力が出てくるのです。
大同は石炭産業から別の方向に転換していこうとしていますが、なかなか一挙に転換できるものではありません。少数民族が暮らしていた時代に首都も周辺にあった、古いものがたくさん残った古都なのです。観光資源は豊かですので、今後は観光産業にシフトしていくようです。
私の育ってきた環境と大きな関係があると思います。私の父は教師でしたが、母は国営企業の商店で店の売り子をしており、私たちの家は何軒か集まる長屋のような集合住宅で、隣近所にはいろんな人が住んでいました。農業に従事する人、工場で働く人、失業者もいました。このように私はいわゆる普通の人たちとともに育ってきたので、気持ち的にも庶民感覚ですし、北京で生活していたときも、社会の低層で生きる人々の営みに興味がありました。私の興味は、幸せな人よりも、困難に直面し、苦悩の中にいる人、そういった人たちに目が向くのです。私は彼らのつらい気持ちを理解し、寄り添えると思うのです。
私は映画を撮るときに、誰に見せるか、という対象を考えることはありません。ただ、自分の撮りたいものをしっかりと撮ろうと思っているだけです。いうならば、全ての人に向けて撮っています。しかし、中国独特のものや表現もあるので、他の国の人には理解してもらえないということもあります。しかし、今作のようなラブストーリーでしたら、どんな国の人にもわかってもらえると思います。国が違えば、何かが違う、ということは少ないでしょうし、ほとんどの人間が同じような経験をしていて共鳴ができると思っています。ですので、世界の人に見ていただきたいと思っています。
また、検閲については、作品ごとになにか検閲に合わせようということは考えないようにしています。自分の道を行こう、やり方を通そうと思っていますし、検閲に通らなければそれはおいておこう、と考えています。とにかく自分を貫こう、そういう考えです。
ある時、北京から自分の故郷に帰る時にUFOを見ました。ある明け方、弧を描いた光が上がると同時に、UFOと思われる物体が回転していたのです。ですから、私は存在を信じています。「長江哀歌」の際は、かなりシュールレアリズム的に撮りました。そういうことって現実世界にもあると思うのです。今回の作品でUFOを出現させたのは、主人公のチャオが人間関係で悩んでいるところで、大自然に包まれ、そして、宇宙の夜空が広がるのです。人間の小ささや孤独というものを感じるという意味で、UFOを出現させてみました。
現在3人の作家を扱ったドキュメンタリーを撮っています。1950、60、70年代生まれの3人をインタビューし、中国の70年を振り返ります。おそらく来年完成して、公開される予定です。この70年で中国はあまりにも、多くの出来事を経験してきました。中国人の精神世界も変わっていったのです。大きな傷を受け、非常に複雑な変化があったと思います。作家をインタビューすると同時に、個人としての記録を作っておきたいと思うのです。なぜ作家を選んだかというと、心の歴史、魂の歴史に向き合い、それを書いている人々だからです。
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