深田晃司監督は「こう見えてサディスト」 筒井真理子が語る鬼才と「よこがお」
2019年7月26日 13:00
[映画.com ニュース]第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した「淵に立つ」から2年――。鬼才・深田晃司監督は、女優・筒井真理子と再タッグを組み、最新作にして問題作「よこがお」を完成させた。そんな二人の思いとは? 二人に聞いた。
筒井演じる主人公はある事件をきっかけに、「無実の加害者」へと転落する。身に覚えのないことで不利な状況に陥り、気がつくと日常が崩壊し始めていた。誰にでも起こりうるかもしれない人生の不条理に、人はどう立ち向かえるか。運命を受け入れ、ふたたび歩み続けるまでの絶望と希望を描くヒューマンサスペンスだ。カンヌをはじめ、世界的な評価を受けた2016年の「淵に立つ」は二人に何をもたらしたのか。「一言で言えば、自分にとっては筒井真理子さんですね。またお仕事をしたいなと思っていました。だから脚本が出来る前の段階から、本作のオファーをさせてもらいました」と語る深田監督に、筒井も「うれしいです! 深田監督の作品に出ると、私はこんな顔をしているのかと気付かされることが多いんです。先日も、目が死んでいるところがあったと言われたんですけど、確認したら本当に目が笑っていないなと思って。そういうのもうれしいんです」と続ける。
さらに筒井は「深田さんの脚本自体に無理がない。そこに人物としての軸があれば、わたしはただ、まわりの人に振り回されて、そこで会話をしていればいい。そうすれば違うところにまで入っていけるんです」とも付け加える。「そういう脚本を書きたいと常に思っているので、それはうれしいですね」と笑顔を見せた深田監督は、「これは自分も毎回苦労していることなんですが、駄目な脚本の場合は、俳優が”怒っている””悲しい気持ちでいる”といった感情を、余計な演技で説明しないといけなくなるから、俳優の荷物が増えてしまう。そうすると俳優は自由に演じることが出来なくなる。だから脚本で、そういった荷物をなるべく減らそうとしているんです」と説明。筒井も「そういうのは自分では気付かないですからね。そういうことが嬉しいですよね」と笑顔を見せる。
そして「いい俳優と組むことが出来るということは本当に重要なこと」と前置きする深田監督は、「だから脚本を書くときも、筒井さんには自由で広い、真っ白なキャンバスを与えてもらったと思っているんです。今回の市子という役はものすごい難しい役で、ある意味、二面性を持っているし、感情もどんどん変化していく。社会的立場が変わっていくと演技も変わっていく。これはものすごいレイヤーが重なっているわけで、単純に上手い人じゃないとこれは出来ない。でも筒井さんならそういった身体的負荷の強い役にも全力で向き合ってくれると思った。筒井さんだからここまでの脚本を書くことが出来た」と述懐。それゆえに精神的な負荷はもちろんのこと、寒い時期に湖に入る芝居を要求するなど、深田監督は自由な作品作りを行う事が出来たという。
それを聞いて「普段は現場でも穏やかな監督なんですけど、こう見えてサディストなんですよね」とちゃめっ気たっぷりに切り出した筒井は、「もちろん現場は愛情あふれるスタッフに囲まれていて。みんな一生懸命わたしのことをケアしてくれている。そういうのを見ると、1ミリも手を抜くことなんてできない、全力でやらないといけないなと思ってしまうんです。もちろん、いつも手を抜いてるわけではないんですよ。私もMなんですかね」と笑ってみせる。さらに「台本を読んで、面白いことを考える監督だなと思いながら読み進めるんですけど、ちょっと待てよと。これをやるのはわたしじゃないかと思うんです」と振り返る筒井に、深田監督も「自分でやらないことだと思うと、ついつい何でも書けちゃうんです」と笑顔を見せた。
本作のヒロインは人生に絶望しながらも、逆境を受け入れ、しなやかな強さで歩み続ける。「これは(市川)実日子ちゃんとも話していたんですけど、深田監督はすごく女性的な作品を作られる方だなと。女性の眼から見ても違和感は感じなかったですね。それがなんだか不思議で」という筒井に、深田監督も「一番意識してるのが、脚本を書くときにこの人物が女性であるか、男性であるかと言うことを一度リセットするということ。自分はどうやっても男性なので、そこから逃れることは出来ない。でも一度それをリセットして、真ん中に近づけていく作業を行っています。それで違和感がないと言っていただけるとホッとしますし、女性でも男性でも、根本となる行動原理は同じなのかなと思いました」と付け加えた。
「よこがお」は7月26日から角川シネマ有楽町、テアトル新宿ほか全国で公開。
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