1秒に2人が死を迎えている世界…タイの新鋭監督が明かす死生観「人生最後の1日はごく普通の日」
2019年7月6日 14:00
[映画.com ニュース] 「BNK48」のドキュメンタリー映画などで知られるタイのナワポン・タムロンラタナリット監督がメガホンをとった「ダイ・トゥモロー」が7月5日、東京・有楽町スバル座で開催中の特集「東南アジア映画の巨匠たち」で上映され、タムロンラタナリット監督、山形国際ドキュメンタリー映画祭理事の藤岡朝子氏がトークショーに出席した。
ユニークでエキセントリックなスタイルに国内外で高い評価が寄せられているタムロンラタナリット監督が、死について思いをめぐらすドキュメンタリードラマ。「人生の最後の1日は、ごくごく普通の1日でありがち」という認識のもと、普通の人が最後の1日を過ごすドラマ部分と、人々が死について語るインタビュー部分で構成されている。
世界の年間死亡者数に基づくと、1秒に約2人の人間が死んでいるというデータが導き出されるという。冒頭から、画面の左上部分には時間の経過とともに、死者数のカウントが刻まれていく。タムロンラタナリット監督は「実はこの映画を作る前に友人が亡くなったことが、死について思いめぐらせる契機になりました。映画のスタイルとして、死は普通の自然なものであると扱いたかった。ある日、人は突然いなくなるということを提示したかった」と狙いを語る。
死を迎える前の1日を描いたそれぞれのエピソードの後に、その人がいなくなった空っぽの空間(Empty Space)が切り取られていく本作。藤岡氏は“空舞台”という言葉を用い、タムロンラタナリット監督のウェブサイトにある「Empty Shot」というフォトギャラリーに言及する。タムロンラタナリット監督は「空虚な空間を見せることで、具体的に物理的に『死』というものを表現したかった。『ここにいた人がもういない』ということを理解するためです」と紐解く。
さらに、「死はごく普通の1日の次の日に訪れるかもしれない」というコンセプトを表現する演出として、「ワンテイク」「ロングショット」「呼吸音」にこだわったという。「日常の瞬間を捉えたかったから、ワンテイクやロングショットという手法が適していると思いました」「呼吸音は意図的に挿入して、それによって(作品の)リズムを決めました。テーマである死と生を司る大事な要素です。呼吸というのは大き過ぎても小さ過ぎてもいけないので、バランスが難しかったです」と解説を加えた。
観客から「映画には使われなかった死のエピソードはありますか?」という質問を受け、「あります」と答えたタムロンラタナリット監督。「あるティーンエイジャーがセレブリティの持ち物を『eBay』(オークションサイト)で売ろうとするんですが、セレブリティが事故で亡くなって、アイテムの値段が急騰するという話。『ダイ・トゥモロー』パート2を作る時はこの話を使いたいと思っています」と笑顔を浮かべた。
「東南アジア映画の巨匠たち」は、7月10日まで東京・有楽町スバル座で開催。
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