展覧会と映画で楽しむクリムト特集 山田五郎が19世紀末ウィーン文化を解説

2019年6月8日 10:00

山田五郎氏(右)と東京都美術館 学芸員の小林明子氏
山田五郎氏(右)と東京都美術館 学芸員の小林明子氏

[映画.com ニュース] 東京都美術館にて開催中の「クリムト展 ウィーンと日本 1900」の特別タイアップ企画で、オーストリア・ウィーンを代表する画家グスタフ・クリムトとエゴン・シーレの没後100年にあわせて製作されたドキュメンタリー「クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代」が公開された。映画の公開を記念し、評論家の山田五郎氏と東京都美術館学芸員の小林明子氏によるトークイベントが開催され、19世紀末ウィーンの文化について語った。

小林:(昨年が)日本とオーストリア友好150年、没後100年ということで、今年はウィーン関係の展覧会がたくさん開催されています。東京都美術館ではクリムトにフィーチャーし、そこから世紀末美術を見ることができます。映画は歴史的、文化的な背景がよくわかる内容ですね。世紀末美術に関わる色々な人たちが出てきた中で、クリムトがどういう人と関係を持ち、制作をしていたのか、展覧会を見るうえでも勉強になるし、知らないことが多いドキュメンタリーです。

山田:現在、国立新美術館でウィーン・モダン展をやっているので、併せて見ると理解の幅が深まるでしょう。この時代のウィーンは凄いですよね、哲学者のヴィトゲンシュタインはいるは、フロイトはいるは、音楽ではマーラーがいて、文学ではシュニッツラーがいてホフマンスタールがいて、そして美術ではクリムトがいてシーレがいて。

小林:ウィーンという街だから生まれてきた人たちですね。

山田:「世紀末」と言われますが、よくよくみれば20世紀に入っても生きている人もいるんだよね(笑)。この人たちは世紀末だけれども同時に「新世紀」で新しい、さらに「でもやっぱり古いね」っているオチがつくのがクリムト。その最後の「でもやっぱり古いね」というのが“ウィーン”。(ウィーンを首都としていたオーストリア=ハンガリー帝国は)1918年に“終わる”国じゃないですか、その古さがパリと違うところ。

小林:ウィーンの保守的というか、伝統が他の土地よりも脈々とあり、同時代のパリやロンドンなど各地で芸術運動が起こっていた19世紀という時代の中で、なぜそのウィーンが20世紀に結び付くことなく終焉していたったのか。あまりにも古い伝統が安定していた中で、なぜクリムトたちが新しいものへ気持ちが向いていったのか、ウィーンという特異な中でそれを打破しようという気持ちがあったからなのか、その都市だからこそ生まれたという気がします。

山田:一方で、さほど打破しようと思っていない節がある。ウィーンは日本でいうと京都みたいな感じ。一筋縄ではいかない、表向きは「ようこそおいでやす」だが、裏では「なんもわかってへん」と思っているような街なので、そう簡単には変わらない。ちなみに、「ウィーン分離派」って、なんかわかりづらい訳をあててしまったよね。「独立派」でいいんじゃない? クリムトがそのウィーン分離派を立ち上げたときに、名誉会長に80歳のおじいさんを置いているけど、それも組織の代表に年長者を置くようなバランス感覚なのかな(笑)そういう街なのだと思いますよ。革新的といっても、やはりパリと違う。新しくもあるけれど、同時に古いものを引きずっている部分もある。

小林:旧態の保守的な画壇があって、そこからの分離、独立というか脱退から始まってはいるけれど、やはり出発点には保守的な画壇があるわけで、クリムトに関していえばそこのクラシックな様式があり、その狭い世界での戦いを繰り広げている感じがあるので、「新しさ」と言っても他の都市と違うところがありますね。

山田:あと、何がすごいかというと、クリムトとシーレはこの時代にパリには行っていない。ウィーンが好きなんだよね。

小林:ほとんどをオーストリアで過ごして、少しイタリアへ行ったりはしているようです。そもそも分離派を立ち上げた目的は、諸外国の美術を国内に紹介しようという、積極的に取り入れようというのがモチベーションとしてあった。そのようなことを意気込んでやらないと入ってこないという状況だった。

山田:でも、行きゃいいじゃない! それでも行かない。分離派会館立てて、そこで展覧会開くんですよね。これ別の言葉で言えば「そちらさんが、おいでやす」でしょ。

小林:その内(ウチ)な感じというか、“地元大好き”じゃないですけど、そんな感じ。

山田:だから満足しているんですよ、変革しながらも満足はしているんですね。この時代に唯一満足していなかったのが、アドルフ・ヒトラー。シーレが美術アカデミーに入った翌年と翌々年に美術アカデミーを落ちている。共産主義者とユダヤ人が現代美術なんてものをやったから自分が報われないのだという恨みを抱き、本当に革命を起こした。

小林:それが影響力あったというのは、本当に恐ろしいことであり、それほどのコンプレックスだったというか。でもこの映画に出てきたマーラーやフロイトなど、多くの人がユダヤ系で、実際この時代活躍していた多彩な人が多かった。ウィーンにはそのような特殊なところがありました。

山田:先ほど小林さんが「ウィーンは20世紀に結び付くことなく」とおっしゃったが、結びつく種はいっぱいあったんです。それが結局全部ナチズム的なものに吸収されてしまった。例えばコルセットで締め付けない女性の服はドイツの医師によって提案された。母体に良くないということで、女性ももっと運動して健康的な身体でより優秀なゲルマン人を産むためにというようなナチスの人種政策になってくる。健康な肉体の思想に対して、不健康な絵を見ているからダメなのだと「大ドイツ芸術」を始めた。その表裏で現代アートが撲滅され、皆アメリカへ亡命した。優秀な科学者たちもアメリカへ行き、結果、第2次世界大戦もアートも科学もアメリカが主流になるのは、それはみんな追い出してしまったから。つまりウィーンにある芽は、ウィーンに恨みのあるアドルフ・ヒトラー、ナチスに摘まれてしまったと言えるかもしれません。

(映画.com速報)

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