「シネマと夢とロマン」新宿タイガーが45年見つめ続けた街と映画
2019年3月24日 19:30
[映画.com ニュース]トラのお面を被って40年以上新聞配達をし、新宿の街の顔として知られる男性を追ったドキュメンタリー「新宿タイガー」が公開された。派手な服装にお面、デコレーションが施された自転車で新聞配達を続けながら、映画や演劇鑑賞に明け暮れる日々を送っているという新宿タイガーさん本人に話を聞いた。
取材会場にもいつものド派手な衣装で、トラのお面をつけて登場したタイガーさん。「映画は美女中心に見るんです」と、最近鑑賞した作品のストーリーや女優の魅力を、今見てきたかのように詳細に説明しはじめる。都内の劇場の最前列が、タイガーさんの特等席だ。「僕は最前列のど真ん中にしか座らないんです。テレビと違って大スクリーンで見る快感と感動。それが醍醐味です」と語る。
24歳だった1972年にタイガーとして生きることを決意した。「子どものころ、お祭りの神社のスクリーンで『赤影』なんかを見て、映画に夢中になりました。それから故郷の松本の映画館に通うようになって。そして、45年前に自分探しで新宿に出てきて、トラに変身して、ずーっとこの通り」と振り返る。衣装やかつらは全て手作り。針や糸は使わず、気に入った布を購入し、安全ピンで留めてつなぎ合わせている。そして、春は桜、夏はハイビスカス、秋は紅葉……と季節に合わせた植物をあしらう。頭部は既成のかつらに鳥の羽をひとつずつ刺して作ったもの。「好きな色はピンク。バラ色の人生ですよ」と、常にハイテンションだ。
都内屈指の繁華街であり、さまざまな文化を生み出してきた新宿の魅力は「古きものと新しいものがバランスよく調和しているところ」だという。タイガーさんとともに古き良き時代を見てきた施設が次第に無くなることに一抹の寂しさも見せるが、「時の流れには逆らえません。時代に逆らうとしたら、僕がずっとトラのままでいること。ラブアンドピース、心にシネマと夢とロマンを持って生きるんです」としみじみと話す。
毎日早朝の自転車での新聞配達、肉体的につらいことはないかと問うと、「シネマと美女を愛すること。それが原動力なんです」ときっぱり。今作でも女優へのときめきを隠さず、その美貌や演技力を褒め称え、熱烈に応援する姿が映される。「僕はフーテンの寅さんみたいに、ニャンニャン未満。絶対に最後まで求めない、女優をこよなく愛するロマンティストなんです」と、女性とは常に紳士的に付き合うというポリシーを明かす。
ちなみに子どもころの夢は「月光仮面になること」だったそう。「テレビ漫画狂いだったから、その夢のまま、大きくなったようなものです。新宿はロマンとモダンのある街。世界の人が来てくれるし。この格好で歌舞伎町のど真ん中を歩いていたって何の問題もない。人生がトラに始まってトラに終わるなんて最高です。我が人生に悔いなしです」と、お面の裏から快活な声で話してくれた。
「新宿タイガー」は、テアトル新宿でレイトショー公開中。