仏実写「シティーハンター」を原作・北条司はどう思う?伝説の“ジャッキー・チェン版”も語る
2019年2月14日 12:00
[映画.com ニュース]北条司氏による人気漫画「シティーハンター」をフランスで実写化した「ニッキー・ラルソン」が、同国で反響を呼んでいる。ポスタービジュアルが披露された際には、日本でも「再現度がマジ」「海坊主がそのまんますぎる」など話題となった今作。果たして北条氏自身は、どう感じているのだろうか。都内のオフィスで、話を聞いた。
1985~91年に週刊少年ジャンプで連載され、スケベだが超凄腕のスイーパー・冴羽リョウと、男勝りの相棒・槇村香の活躍を描いた「シティーハンター」。フランス実写版「ニッキー・ラルソン」は、少年時代にアニメシリーズに熱中したというフィリップ・ラショー(「世界の果てまでヒャッハー!」など)が監督・主演を務め、魂を込めて製作に当たった。現地時間2月6日に公開され、5日間で観客動員51万人超のヒットを記録中。日本では2019年に封切り予定だ。
また2月8日には、アニメシリーズの約20年ぶり新作「劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズ」が日本公開。ホアン・シャオミンが主演する中国実写版も19年公開予定で、ここにきて、にわかに「シティーハンター」熱が高まっている。
「フランスのラショー監督が実写化をしたがっていると、会社(ノース・スターズ・ピクチャーズ)を通じて連絡が来たことが始まりです。そういったオファーは、日本やアメリカなど、いろんな国からたくさん来るんですが、毎回『プロットを出してほしい』と伝えています」
「今回は企画書と一緒に、ラショー監督からの手紙が入っていたんです。熱烈な思いがこもった内容でした。そういうことは珍しくて。映画化は、強烈に『自分がやりたい!』という人に任せるのが一番だという思いが、僕のなかのどこかにあります。原作とはかけ離れてしまうことも、珍しくないじゃないですか。でもそういうことが、ある程度おさえられるかなと思うからです」
「プロットが届き読んでみたら、意外な盲点がたくさんありました。『こういう手法で、冴羽リョウの危機を作るのか!』と。アクション的な危機ではなく、『シティーハンター』の世界観で、主人公が危機に見舞われて、しかもそれがちゃんとギャグになっている。これは思いつかなかった、やられたと(実写化の)OKを出しました」
「正直、やっときたか、という感じでした(笑)。何でフランスからはオファーが来ないんだろう、と思っていたくらいなんです。しかも『世界の果てまでヒャッハー!』の監督という。バカバカしいけど、脚本はよく練られていて面白かったし、きっととても頭がいい人なんだろうと注目していた監督でした」
「肩肘張らずに笑えるし、楽しいし、ハラハラする。僕ははっきり言って、ハリウッド超大作には眠くなっちゃうんですよ。あまりにも派手で危機一髪でハラハラし過ぎるし、『普通、これで死ぬだろ。ありえない』『やっぱりフィクションだ』と冷めちゃうことが多い(笑)。『ニッキー・ラルソン』はそうでなく、逆に、妙にリアルな感じがした。ある意味あり得ないことは起こりますが、ちゃんとギャグになっている。また、ギャグの要素が非常に多かった。それもフランス的で、『ここまで見せるの!?』というような……。そのあたりは、日本の女性がどう受け取るか、わからないですけど(笑)。お色気ではないんですが、向こうはPGの概念がないので、モザイクとかもない。日本だとモザイクが入るんでしょうかね」
「海坊主はそのまんまでしたね(笑)。実際にいたらこうなんだろうと思った。演じてくれた方は、普段は格闘家だそうで、セリフがあまりないことが、かえって海坊主ぽかったのかもしれません。そして香についてなんですが……。僕の映画の好みでは、ヒロインは最初、あまり魅力的に見えないけれど、話が進んでいくうちにどんどん輝いていくのが良い映画だと思っています。まさにこの映画では、行動であったり表情であったり、ヒロインがどんどん可愛くなっていくんです」
「漫画の表現方法を、無理やり実写に持っていこうとする作品が多いと感じています。漫画ではこうだけど、実写ではこう表現するべきだよね、とちゃんと練ってもらわないと、本当に絵空事にしかならない。そこをわかってくれている製作者は、そうそういないように思います。そして色んな人の思惑が関わりすぎて、『原作の良いところ』『ファンが見たいもの』が置いてけぼりになりやすい。だから、『どうしても自分がやりたい』という人が中心にドンといないと、厳しいかもしれないですね」
「『シティーハンター』を映画化する際に必ず言われるのは、『100tハンマーは絶対に出します』。そう言われると、『いや、それはいいです』となってしまう(笑)。出したってしょうがないでしょう。漫画やアニメでは重要なアイテムですが、現実世界で100tハンマーを振り回すやつがどこにいるんですか(笑)。やるなら幻想や夢の世界として描いてくれないと。『結局はフィクションだな』と思われるのは嫌ですから」
「ゴールデンハーベストから『ジャッキー・チェンでやりたい』とオファーがありました。それまで実写化は全部断ってきたんですが、当時は連載が終わるころでしたし、『最後のサービスだ』と思った。またジャッキーならば、『シティーハンター』にはならなくても、ジャッキー映画として面白くはなるだろうと思ってOKを出しました。仕上がりは、しっかりジャッキー映画でしたね(笑)」
「あれはびっくりした。もうやりたい放題だなと思った(笑)。でも当時の中国では、漫画とゲームとアニメの感覚はこうなんだと、違う意味で面白かったですね。『シティーハンター』とは思わなかったですけど、仕上がりも単純に面白かった。試写室でアシスタントと一緒に見て、腹を抱えて笑ったのをよく覚えています。あのときも、プロットは一応確認しましたが(製作サイドに)『変更されますよ』と言われた。中国では脚本を確認のため見せると、どこか別の会社が盗んで製作してしまうことが、よくあったそうです。なので、ちゃんと完成させた脚本を書かないことは、当たり前だったそうです」
「僕らの時代は、漫画は読み捨ての文化だという感覚でした。時代の流行や、時代に即した、その時代だけで読まれるものだと。僕らも、編集部もそう思っていて、『長く読み続けられるものを描こう』という感覚は皆無でした。だから、なぜいまだに読んでくれているんだろう、どこに魅力があるんだろうと、こっちが聞きたいくらいです(笑)」
「短編でいいから描いてもらいたい、とよく言われますが、もう描けないんですよ。あれは、あの時代の熱量、若さが生んだもの。読み返してみると『60歳になったオヤジが描けるものではない』と思う。それはきっと、あの瞬間にしかなかったものが込められているからなのでしょう」
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執筆者紹介
尾崎秋彦 (おざき・あきひこ)
映画.com編集部。1989年生まれ、神奈川県出身。「映画の仕事と、書く仕事がしたい」と思い、両方できる映画.comへ2014年に入社。読者の疑問に答えるインタビューや、ネットで話題になった出来事を深掘りする記事などを書いています。
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