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【佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】「ヒューマン・フロー 大地漂流」

2019年1月16日 15:00

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アイ・ウェイウェイが世界23カ国の難民を取材
アイ・ウェイウェイが世界23カ国の難民を取材
(C)2017 Human Flow UG. All Rights Reserved.

中国共産党政府とも対立する、闘う現代アーティスト、アイ・ウェイウェイが、難民をテーマに撮ったドキュメンタリ。この設定だけを聞くと、とびきり政治的な映画なのではないかと身構えてしまう。たしかに政治的な映画なのだが、しかし政治的なメッセージだけだったら、2時間20分もあるこの長尺の映画は途中で飽きてしまうだろう。

この作品が凄いのは、その圧倒的な表現力だ。冒頭はいきなり、真蒼な海を飛んでいく海鳥を、上空から小さく俯瞰して撮影する。白波を蹴立てて進むボートが映る。20世紀前半のトルコの亡命詩人、ナーズム・ヒクメットの詩が画面を流れる。

「生きる権利がほしい。跳ねるヒョウやはじける種のような 持って生まれた権利がほしい」という

そして夜の暗闇が終わり、灯台のあかりが点滅し、朝焼けに赤く染まる空を小さなボートが急ぎ、やがてオレンジの救命胴衣を着た人を満載したゴムボートが海の向こうからやってくる。

ドローンを効果的に活用し、俯瞰から急速に高度を落として地面へとクローズアップしていくようなショットが多用されている。加えて、おそらくスマホで撮影された、リアル過ぎるぐらいに不潔で困難に満ちた難民キャンプの日常。この2つの遠近がたくみに組み合わされて、映像を観ていると本当に飽きない。

過剰な物語が描かれるわけでもなく、政治的なメッセージが全面に出ているのでもなく、かといって往年の「記録映画」のような退屈さもない。ただ難民の様子を淡々と追いかけていっているだけなのに、視線を釘付けにされたまま、気がつけば140分が終わっていた。

アイ・ウェイウェイと撮影クルーは、全世界の23カ国をまわり、1年もかけて難民を撮影し、映像素材はトータルで900時間分にも上ったという。ここから厳選された映像で構成された本作は、実に見事であり、世界有数の現代アーティストの面目躍如というしかない。かなり絶賛され、ヴェネチア映画祭では5部門を受賞したというのも納得できる。

多くの日本人にとって、難民問題というのは遠い国の話に感じるだろう。この問題にリアリティを感じる機会も少ない。そういう人にこそ、この作品を「超面白いドキュメンタリ映画」として楽しんでみてほしいと思う。

ヒューマン・フロー 大地漂流」は、シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開中

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