【佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】「ヒューマン・フロー 大地漂流」
2019年1月16日 15:00
中国共産党政府とも対立する、闘う現代アーティスト、アイ・ウェイウェイが、難民をテーマに撮ったドキュメンタリ。この設定だけを聞くと、とびきり政治的な映画なのではないかと身構えてしまう。たしかに政治的な映画なのだが、しかし政治的なメッセージだけだったら、2時間20分もあるこの長尺の映画は途中で飽きてしまうだろう。
この作品が凄いのは、その圧倒的な表現力だ。冒頭はいきなり、真蒼な海を飛んでいく海鳥を、上空から小さく俯瞰して撮影する。白波を蹴立てて進むボートが映る。20世紀前半のトルコの亡命詩人、ナーズム・ヒクメットの詩が画面を流れる。
「生きる権利がほしい。跳ねるヒョウやはじける種のような 持って生まれた権利がほしい」という
そして夜の暗闇が終わり、灯台のあかりが点滅し、朝焼けに赤く染まる空を小さなボートが急ぎ、やがてオレンジの救命胴衣を着た人を満載したゴムボートが海の向こうからやってくる。
ドローンを効果的に活用し、俯瞰から急速に高度を落として地面へとクローズアップしていくようなショットが多用されている。加えて、おそらくスマホで撮影された、リアル過ぎるぐらいに不潔で困難に満ちた難民キャンプの日常。この2つの遠近がたくみに組み合わされて、映像を観ていると本当に飽きない。
過剰な物語が描かれるわけでもなく、政治的なメッセージが全面に出ているのでもなく、かといって往年の「記録映画」のような退屈さもない。ただ難民の様子を淡々と追いかけていっているだけなのに、視線を釘付けにされたまま、気がつけば140分が終わっていた。
アイ・ウェイウェイと撮影クルーは、全世界の23カ国をまわり、1年もかけて難民を撮影し、映像素材はトータルで900時間分にも上ったという。ここから厳選された映像で構成された本作は、実に見事であり、世界有数の現代アーティストの面目躍如というしかない。かなり絶賛され、ヴェネチア映画祭では5部門を受賞したというのも納得できる。
多くの日本人にとって、難民問題というのは遠い国の話に感じるだろう。この問題にリアリティを感じる機会も少ない。そういう人にこそ、この作品を「超面白いドキュメンタリ映画」として楽しんでみてほしいと思う。
「ヒューマン・フロー 大地漂流」は、シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開中
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド
【この最新作を観るべきか?】独自調査で判明、新「アベンジャーズ」と関係するかもしれない6の事件
提供:ディズニー
セプテンバー5
【“史上最悪”の事件を、全世界に生放送】本当に放送していいのか…!?不適切報道か否か?衝撃実話
提供:東和ピクチャーズ
ザ・ルーム・ネクスト・ドア
【死を迎える時、どんな最期を選びますか?】“人生の終わり”と“生きる喜び”描く、珠玉の衝撃作
提供:ワーナー・ブラザース映画
君の忘れ方
【結婚間近の恋人が、事故で死んだ】大切な人を失った悲しみと、どう向き合えばいいのか?
提供:ラビットハウス
海の沈黙
【命を燃やす“狂気めいた演技”に、言葉を失う】鬼気迫る、直視できない壮絶さに、我を忘れる
提供:JCOM株式会社
サンセット・サンライズ
【面白さハンパねえ!】菅田将暉×岸善幸監督×宮藤官九郎! 抱腹絶倒、空腹爆裂の激推し作!
提供:ワーナー・ブラザース映画
激しく、心を揺さぶる超良作だった…!
【開始20分で“涙腺決壊”】脳がバグる映像美、極限の臨場感にド肝を抜かれた
提供:ディズニー