リティ・パン監督、元クメール・ルージュの証言と犠牲者への弔いを映す新作を語る
2018年11月19日 18:00
ベネチア国際映画祭の「ベニス・デイズ」部門で上映された本作は、文学作品を引用しつつ、クメール・ルージュの支配がいかに無軌道であったかが、当時を知る人々によって語られていくドキュメンタリータッチの作品。
長年、カンボジアで行われたクメール・ルージュによる大虐殺をテーマにした作品を送り出しているパン監督。今作のテーマについて「今回の作品では、どのように喪に服すのかを考えました。喪の仕事はとても個人的で複雑なものです。よく、赦しや和解ということが言われますが、和解があってはじめて喪の作業が可能になるのです。このような大量犯罪の場合、犠牲者の遺体が存在していないことが問題になります。共同墓地にあるのか、さまざまな場所に分散しているのか、犠牲者の遺体という触れる痕跡や証拠がないと、喪に服すことは難しいのです。この映画では死者のさまよえる魂を求めて、それを探求することになりました。どのようにすれば、喪の作業を行うことができるのか。どのようなアプローチが必要なのかを求めた映画です」と語る。
作品内に登場し、惨状を語る2人の男性がどんな立場だったのかは明らかにされていない。観客からふたりは犠牲者の側だったのか、拷問を行った側だったのか。彼らも犠牲者の一部だと考えることができるが――と質問が寄せられた。
パン監督は、当時のカンボジアの国民は新人民と旧人民のふたつに分けられたと説明し、「新人民は1975年にクメール・ルージュからカッコつきの解放をされて、都市から地方へ強制移動をされた人々で、私もその一部でした。映画に出ているふたりの人物は、旧人民。もとから村にいた人です。ひとりは軍人で、もうひとりは農民でした」と明かす。
そして、「この映画は、3つの側面が存在しています。ひとつはインタビューを受けた2人のような旧人民の軍人や農民、もうひとつはそこにはいない犠牲者たちです。3番目が、私を含む生き延びた数少ない新人民。私は、様々な人々に会いました。ひとりはクメール・ルージュの旧人民で、農民、新人民よりかなりの権力を持っていました。もうひとりは、軍人で幹部であり、革命家で、戦争を闘ってきた人物です。50年代から既に革命に参加してきました。そして霊媒師も重要な役割を担っています。精神分析家のように、人々が自分の心を打ち明ける人です。霊媒たちは多くのことを知っています。人の心の痛みを理解できるのが霊媒です」と詳細を語った。
また先日、元クメール・ルージュの高官2人に、少数民族に対する大量虐殺の罪で有罪判決が出たことについて意見を求められると、「ルワンダ、ボスニア、カンボジアそれぞれのケースは異なり、このような犯罪を全て明らかに裁ききるのは不可能でしょう。ジェノサイドという言葉、その罪を再定義しなければならない、それは裁判所の仕事です。私はもちろんカンボジアの特別法廷の支持をします。しかし、なすべきことがあまりにも多すぎ、できることが限られているので、さまざまなことが繰り返されている気がします。カンボジアでは再びイデオロギー的な暴力が実行されるようになり、我々はその中にいるのです。悲劇的な形で歴史が繰り返されています。ロヒンギャのこと、イエメンでも大量虐殺の犯罪は起こり続けています」と持論を述べる。
そして最後に、「私は映画を作るたびに心が平穏になっていくのがわかります。死者たちの思いをいつも抱えて生きているので、私の仕事は終わらないとも思いますが、むしろ共に生きようと試みるのがいいかもしれません。我々がここに存在するために、自らを犠牲にしてくれた人々であるということもできます。ですから、私はできる限りこの記憶の仕事を進めていくこと。そうすることによって、私の次の世代がこの重荷を抱えなくて済むようにすることではないかと思うのです。何が起きたのか、誰が犠牲者で、拷問を加えた側だったのか、それを知ることができれば次の世代はページをめくって新たに進んでいくことができるのでは。私の世代はこの物語を抱えたまま死ぬことになるでしょうが、私は楽観的な気持ちでいます。死者やクメール・ルージュの話ばかりにとりつかれているわけでなく、生きることも愛も、自分の周辺にいる人々も好きですし、瞬間瞬間を生きようと思っています。人生は短いので選択が必要です。私は自分の歴史に向き合うことを選びました。自分が幸福な顔を思い浮かべて死ぬことができれば――そのような最後の瞬間に向かって、自分は映画を作っている様に思います」と述懐した。
第19回東京フィルメックスは11月25日まで、東京・有楽町朝日ホールほかで開催。
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