「大いなる闇の日々」が警鐘を鳴らす、現代社会へのアンチテーゼ

2018年11月5日 14:00

マキシム・ジルー監督とマルタン・デュブレイユ
マキシム・ジルー監督とマルタン・デュブレイユ

[映画.com ニュース] 世界大戦の中、ケベックからアメリカ西部に避難していたフィリップは、チャップリンのものまね大会で賞をとり、故郷に帰る決意をする。だがその帰途、戦争の狂気に巻きこまれた暴力的な人々に鉢合わせてしまい、彼の行く手を阻む。いつの大戦かははっきりと描かず、現代社会、特に資本主義社会へのアンチテーゼを色濃く描いた寓話。その警鐘について、マキシム・ジルー監督と主演のマルタン・デュブレイユに聞いた。

――寓話ではありますが、これは実際に今、どこかでありそうな話ですね。

マキシム・ジルー監督(以下、ジルー監督):今のアメリカは、世界の揺りかごのようなもので、アメリカの存在が影響してあらゆる分断が世界のあちこちに見られると思います。1940年代~70年代まで語られていたアメリカンドリームとは違うものになっていて、今は資本主義のドリームになっているんですよね。よりお金を持ち、より権力を持つということだけに夢が集中してきていると思います。

マルタン・デュブレイユ(以下、デュブレイユ):アメリカはどんどん分断されていて、格差ができているし、極左と極右という風に過激化していると思うんですが、その反面、現在の政府を恥だと思っている人も多いですよね。

ジルー監督:昔のアメリカンドリームは道徳的にも、もう少し私たちも受け入れられるものだったと思うんですよね。民主主義を打ち立てようとか、自由を大切にしようとか、美しい世界をつくろうとか、それを次の世代に伝えようというものがあったけれど、今それは全くなくなってしまいました。

――そう考えると、隣国のあなたの国カナダはとても誠実に見えます。

ジルー監督:アメリカよりましに見えますけど、そうでもないんですよ。今まであったような福祉や教育の平等がなくなっていて、アメリカ化しているんですよね。

デュブレイユ:政府は環境に配慮しないですしね。現在のトルドー政権でもそうです。表面的な主張だけで、実際には環境破壊が豊かさのために進んでいるんです。

ジルー監督:アメリカとは違いたいとみんな思っているけど、実は思ってるよりもずっと似てるというのが現実。ただ、アメリカの多くの人が進歩的で、今のままじゃいけないと考える人が多いということも忘れてはいけないと思います。

――映画の力を信じて、それを訴える。これは素晴らしいことですね。

ジルー監督:その通りです。今起こっていることのリアクションとして、この映画を作ったんです。だから、なるべく早く撮りたいと思って、すごくスピーディーに製作を進めました。トランプ大統領が当選したことはある程度予測可能だったんですよ。資本主義の恥ずかしいアイコンがトランプで、下劣なアイコンだと思います。残念なのは、世界の半分が彼のような思想を持っているということ。気が付いたかどうかわからないですけど、最初にお金を渡す人はトランプに似た人にしてるんですよ(笑)。

デュブレイユ:彼は俳優じゃなかったけど、どうやって見つけたの?

ジルー監督:駅で働いている人で「トランプに顔が似ている人がいる。あいつにお願いしよう」といってお願いしたんだよ(笑)。

――架空の世界観とはいえ、大戦のフッテージなど、リサーチはどのようにされたんですか?

ジルー監督:ネットでアーカイブを検索したり、ロケハンに行ったりしました。基本は3人で作業をしています。私と脚本家の人と、セリフを書く人。みんなでアメリカへ行って、かつては栄えていたけれど今はゴーストタウンになっているところを取材したんですね。実はロケでは何も変えずに撮っているんです。あの状態が今も残っているんですよ。それらのドキュメントを取り入れています。戦争被害によって顔がゆがんでしまった人の映像を使うというのは、かなり最初の段階でアイデアがありました。というのも資本主義批判の映画ですが、資本主義イコールお金儲けで、その最たるものは戦争なんですよ。戦争をやることによって、被害者は文字通り顔をつぶされた。そのメタファーを取り入れようと思っていました。ちなみにあの映像は、第一次世界大戦のときのフランスの被害者の映像です。

――泥につけられるシーンは過酷でしたね。

デュブレイユ:想像以上にきつかったですよ。顔しか出ていないので、顔だけで演技をしなければならないというのもあるし、肉体的にも長時間泥の中につかっていないといけなかったし、同じ姿勢をとってないといけなかったし。ランチの時とか他の人がみんながご飯を食べに行っているのに僕だけあそこで食べなくちゃいけなかったりとか、結構大変で。あのシーンは何日あったんだっけ?

ジルー監督:3日だよ。

デュブレイユ:そんなもんだったっけ? もっと長く感じたよ。

ジルー監督:君じゃなきゃできないよ(笑)。マルタンじゃなかったらこの映画は撮れないと思っていたんで、彼のスケジュールを最優先に考えてキャスティングしたんです。なぜならケベックでは彼以外に、こんな肉体的に厳しい撮影はできないから。だから、マルタンが撮影できる時期に空いてる俳優さんはだれだろうって探して。撮影何日か前に、「空いてます、行きます」って撮影に参加してくださった方もいました。

――実際のところ、おふたりは現実社会の現状が変わると思っていますか?

ジルー監督:私は悲観的です。これが終わるのはシステム自体が自己崩壊する時だと思います。まもなくそれが起こるのではないでしょうか。

デュブレイユ:私はますます戦争があちこちで起きるようになると思います。とても優しい人たちでも、自分の意見を通すために相手を倒すことをやるようになるし。

ジルー監督:人間はどんどん多くなっていきますし、環境は破壊されているわけですから、例えば、飲み水がなくなる食べ物がなくなる、そうすると戦いですよね。自然淘汰が待っている。まさに聖書の一節。作品の中でもそれを使っているんですよ。

(取材/構成 よしひろまさみち 日本映画ペンクラブ)

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