ベネチア銀獅子賞「運命は踊る」名匠サミュエル・マオズ「古典的なギリシャ悲劇を描きたかった」
2018年9月28日 19:00
[映画.com ニュース]第74回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞したイスラエルの名匠サミュエル・マオズ監督の新作「運命は踊る」が9月29日公開する。息子の戦死という誤報を受けたイスラエル人夫婦の姿を通して、人間の運命の不条理を、こだわり抜いた映像で描いたドラマだ。来日したマオズ監督に話を聞いた。
テルアビブのアパートで暮らすミハエルとダフナ夫妻のもとに、軍の役人が息子ヨナタンの戦死を知らせにやってくる。ダフナはショックのあまり気を失い、ミハエルは平静を装いながらも役人の対応にいら立ちを覚える。やがて、戦死は誤報だったことが判明。ミハエルは怒りを爆発させ、息子を呼び戻すよう要求する。
「私は古典的なギリシャ悲劇を描きたかったからです。この物語に登場する彼らは、自らの運命をおびき寄せてしまっている。そして、そこから救い出してくれる人間の助けを、どうなるかもわからずに拒否してしまうのです。物事は、すべて偶然の産物であると言うこともできますが、運命のいたずらを感じさせるものもあると私は考えていて、この作品では後者を描きました」
「3部にした理由は、それぞれの幕で、中心となる人物の人物像を明確に反映するような構成にしたかったのです。1幕目のミハエルの場面では、シャープでシンメトリーに、幾何学模様を醸し出すような動きです。最後まで、見る者が不快感を催すほどにこだわった映像作りを心がけました。最後の母親のダフナのシークエンスは、シンプルで、緩やかなものを意識しています。そして2幕目のヨナタンは、夢見るアーティスト。地上から数センチ浮遊しているような描写です。そういったものを意識して、それぞれの幕を構成しています。この3幕で観客に感情的な冒険を与えたかったのです。1幕目ではショックを、ふた幕目ではトランス状態や幻惑させるような意識、3幕目はエモーションです。この3幕で、完全な球体が作れるのではないかと試みたのです」
「そうです。私の作品はまず映像ありきです。アイディアが浮かぶ時はビジュアルからなのです。例えば今回、ダフネの部屋に飾ってある抽象画は、ミハエルの心の中をエックス線で透視し、トンネルの中に引き込まれていくような絵を美術スタッフに依頼しました。私は、自然主義者ではないので、起こっていることを有り体に撮ることはやりません。観客に映画的な体験をして欲しいのです。それぞれの画が、登場人物の心の内を突き刺し、それを反映するような映像作りを心がけています。それは、マニピュレーションかもしれませんが」
「そして、今作ではなにより、トラウマを抱えた人間の空気を感じて欲しかったのです。ビジュアルは、私のストーリーテリングの大きな柱のひとつになっています。ダイアログを完全否定するつもりはないのですが、基本的に敵だと思っています。ビジュアルでは一気に語ることができます。第1幕の引きのシーンでは、ミハエルが初めて吐く一言のセリフ『僕はひとりでいたい』のみで、あの彼の部屋の中から、彼がどういう職位をもって、どういう生活をしているのかがわかると思います。やりすぎといっていいほど意匠を凝らしたのです。そういうディテールが、ものすごく雄弁に彼の有様を語るショットなのです。それを言葉で説明すると、台本で3~4ページ使うところを、10秒で済ますことができるのです。言葉はそもそもフィルターでしかありません。人間の心情だったり、思いを直に伝えるのは視線や表情。ビジュアルは、ものすごく雄弁に語る、豊かな言語だと思うのです。美しいと言うにも、言葉ではいろんな表現ができますが、映像では字幕を読まなくてもその美しさがわかる。だから、ビジュアルありきだと考えます」
「私は視覚的に映画を見るので、レンズや照明をどうするかなどを事細かに撮影稿に書き込みます。こういう風に作ればいい映画になるという定型はありませんが、ある程度の原則はあります。そうやって、土台固めをきちんとして、初めて即興を入れてみよう、ちょっと飛躍しようと考えるのです。それは土台がなくてはできません。自分で絵を描けないので、コンテを作るときは3DCGのプログラムを用いて、ロケハン中に撮った写真や、内装の写真を重ねながら、その場の状況を作っていきます」
「画家や詩人は自分の作品を独占できるので、ひとりで創造的な活動ができる人がうらやましいです。映画監督は時間的制約、予算のプレッシャーがある中で、一発勝負でシーンを作らなければなりません。それと、願わくば自分のことを理解してくれている人を頼らなければいけないという難しさがある。だからこそ、徹底的な準備が必要なのです。現場でリーダーシップを発揮するには、準備を重ねて、現場で動き、自分のビジョンはこういうものだとはっきり提言する。そうすれば人は、どんなことがあってもついて来てくれるのです。映画製作はプロセスですから、そのプロセスを楽しむことが重要です」
「運命は踊る」は、9月29日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国で順次公開。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
十一人の賊軍 NEW
【本音レビュー】嘘があふれる世界で、本作はただリアルを突きつける。偽物はいらない。本物を観ろ。
提供:東映
映画料金が500円になる“裏ワザ” NEW
【仰天】「2000円は高い」という、あなただけに伝授…期間限定の最強キャンペーンに急げ!
提供:KDDI
グラディエーターII 英雄を呼ぶ声 NEW
【人生最高の映画は?】彼らは即答する、「グラディエーター」だと…最新作に「今年ベスト」究極の絶賛
提供:東和ピクチャーズ
ヴェノム ザ・ラストダンス NEW
【最高の最終章だった】まさかの涙腺大決壊…すべての感情がバグり、ラストは涙で視界がぼやける
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
“サイコパス”、最愛の娘とライブへ行く
ライブ会場に300人の警察!! 「シックス・センス」監督が贈る予測不能の極上スリラー!
提供:ワーナー・ブラザース映画
予告編だけでめちゃくちゃ面白そう
見たことも聞いたこともない物語! 私たちの「コレ観たかった」全部入り“新傑作”誕生か!?
提供:ワーナー・ブラザース映画
八犬伝
【90%の観客が「想像超えた面白さ」と回答】「ゴジラ-1.0」監督も心酔した“前代未聞”の渾身作
提供:キノフィルムズ
追加料金ナシで映画館を極上にする方法、こっそり教えます
【利用すると「こんなすごいの!?」と絶句】案件とか関係なしに、シンプルにめちゃ良いのでオススメ
提供:TOHOシネマズ
ジョーカー フォリ・ア・ドゥ
【ネタバレ解説・考察】“賛否両論の衝撃作”を100倍味わう徹底攻略ガイド あのシーンの意味は?
提供:ワーナー・ブラザース映画
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。ジャーナリストとしての使命感と狂気の間で揺れ動く藤井役を山田孝之、死刑囚・須藤をピエール瀧が演じ、「先生」役でリリー・フランキーが初の悪役に挑む。故・若松孝二監督に師事した白石和彌がメガホンをとった。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
ハングルを作り出したことで知られる世宗大王と、彼に仕えた科学者チョン・ヨンシルの身分を超えた熱い絆を描いた韓国の歴史ロマン。「ベルリンファイル」のハン・ソッキュが世宗大王、「悪いやつら」のチェ・ミンシクがチャン・ヨンシルを演じ、2人にとっては「シュリ」以来20年ぶりの共演作となった。朝鮮王朝が明国の影響下にあった時代。第4代王・世宗は、奴婢の身分ながら科学者として才能にあふれたチャン・ヨンシルを武官に任命し、ヨンシルは、豊富な科学知識と高い技術力で水時計や天体観測機器を次々と発明し、庶民の生活に大いに貢献する。また、朝鮮の自立を成し遂げたい世宗は、朝鮮独自の文字であるハングルを作ろうと考えていた。2人は身分の差を超え、特別な絆を結んでいくが、朝鮮の独立を許さない明からの攻撃を恐れた臣下たちは、秘密裏に2人を引き離そうとする。監督は「四月の雪」「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」のホ・ジノ。