「カラテカ」矢部太郎、バンクシーの正体に迫る貴重な証言に思考停止
2018年7月21日 21:30
[映画.com ニュース] 正体不明のグラフィティアーティスト・バンクシーとその作品がもたらす影響力に迫るドキュメンタリー「バンクシーを盗んだ男」のジャパンプレミア記念トークショーが7月21日、東京・新宿シネマカリテで行われ、お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎と、ライター・翻訳の鈴木沓子氏が登壇した。
第22回手塚治虫文化賞短編賞受賞作「大家さんと僕」の作者としても知られる矢部は、「先生と言われることが増えてしまいまして、非常に慣れない日々を送ってます」と挨拶。今回のトークショーは、鈴木氏が春に行ったてい談の際、矢部がバンクシー好きだと知ったことで実現したもの。青山の洋服店で購入したキャップをきっかけにバンクシーを認知した矢部は「匿名性に惹かれる部分があるんです。僕は名前も出していますし、プライバシーの切り売りと言いますか…芸名のある人に憧れるんですよ。(正体を隠した)活動には難しさがあるはず」と説明し、覆面作家のトマス・ピンチョン、舞城王太郎と並んで大ファンになったようだ。
バンクシーの作品について「こんなこと言っては失礼かもしれませんが、壁に描かれた“大喜利”の答えとしてはすごく面白い」と矢部。劇中の“ペイントが壁から切りとられる”という展開に触れ「その場所に描かれている状況も含めて、この“大喜利”が出来上がっていると思うんです。フリを省略してボケたところで全然ウケなくなりますよね。(バンクシーの作品には)場所性は切り離せない」と分析した。さらにパレスチナ・ヨルダン西岸地区にあるベツレヘムの“分離壁”に描かれた作品には、お笑いの「緊張と緩和」の理論を持ち出し「一番緊張する場所で(作品のテイストで)緩和させる。素晴らしいと思います」と絶賛していた。
バンクシー関連の映画が出るたびに「何処までバンクシーが関わっているのか考えさせられる」という鈴木氏。本作に関しては「反バンクシー側の意見が初めて入っていました。他の作品に比べて、最もストリートアートの現状をとらえています」と話し、ある情報の消失に着目した。公式にはバンクシーは作品に関わっていないが「彼は、2005年からイラク戦争反対のプラカードを無料で配ったり、自分が得た報奨金をパレスチナ難民の子どもたち、若いアーティストの団体に寄付するなど、中東のサポートを続けてきました。その辺りの話が一切出てこなかったんです。もしもバンクシーが監修を務めていたら、偽善者っぽく見えるから、その話題は出したくないのかなと深読みしました。だからこそ、少しは関わっているんじゃないかなと」と語っていた。
かつてバンクシー本人にロンドンでインタビューしたことがある鈴木氏は「(本当に)いるんですか!?」と半信半疑の矢部に対して、「います! 『マッシヴ・アタック』の方ではなかったです」と切り返した。「ものすごく眼光が鋭くて、英語が綺麗な“クイーンズ・イングリッシュ”。そして、とてもストレートに『世界を良くしたい』と言ってました」と答えると、矢部は貴重な証言を前にして「へー、そうなんですね…聞いちゃいましたけど。世界を良くしたいんですね…」と思考停止。鈴木氏は「その時はあまりピンとこなかったんですけど、それから十数年活動を続けてきているのを見て、ようやくわかってきました」と補足していた。
「バンクシーを盗んだ男」は、神出鬼没の活動で世界中から注目を集めるバンクシーの人物像と、数千万円から1億円で取り引きされるという作品にまつわるドラマに迫った本作。舞台は、紛争地区に指定されているベツレヘムの“分離壁”。その壁にバンクシーが「ロバと兵士」を描いたことからパレスチナで反感を呼び、怒った地元住民が壁面を切り取ってオークションへかけてしまう。8月4日から全国で順次公開。