急転の再撮影も動揺なし!「ゲティ家の身代金」主演ミシェル・ウィリアムズを支える“信念”
2018年5月24日 14:00
[映画.com ニュース] 1973年に発生した大富豪ポール・ゲティの孫の誘拐事件を題材にした「ゲティ家の身代金」の主演女優ミシェル・ウィリアムズが、公開を前に来日。いま、世界を揺るがしている#MeToo運動、ハリウッドにおける男女間の賃金格差問題など、思いもよらない数奇な運命を歩んだ本作について、赤裸々に語った。
最初の“事件”は当初、物語の中心を担う世界一の大富豪・ゲティ役で参加していたケビン・スペイシーの降板。ハリウッドの大物プロデューサーや俳優による長年にわたるセクシャルハラスメントへの告発に端を発した「#MeToo」ムーブメントのさなか、スペイシーにも疑惑が持ち上がる。公開1カ月前の段階にもかかわらず、リドリー・スコット監督は再撮影を決断。オスカー俳優クリストファー・プラマーを代役に、約9日間の怒とうの撮影を敢行して映画を完成させた。
さらに、この追加撮影のギャラに関して、元CIAの人質交渉人を演じたマーク・ウォールバーグと、主演で人質の青年の母親を演じたウィリアムズの間で、大きな格差(一説ではウォールバーグのギャラはウィリアムズの1500倍)があることが明らかになり、男女間の賃金の不平等問題として大きく報じられた(ウォールバーグはその後、追加撮影のギャラを寄付することを表明した)。
もちろん、ウィリアムズはこのような形で注目を集めることを望んでいたわけではない。「本当に悲しい状況から生まれたもので、本来あってはならないもの」と語った上で「それでも……」と続ける。「そこから対話や議論が生まれたのはいい状況だと思いう。賃金のことが明らかになったときは『私ってそんなに価値がないのかしら?』って落ち込んだけれど(笑)、今回のことがあって賃金の透明性が確保されたわけで、以前はもっと悲惨な状況だったということも明るみに出たわ。これだけ大きな“うねり”が生まれたということが、私のキャリアの中でも非常に重要な意味を持つことだったと思う」。
ウィリアムズが演じたアビゲイルは、誘拐された息子を取り戻すべく犯人グループ、そして身代金の支払いを断固拒否する義理の父・ゲティ(プラマー)にも立ち向かうことになる。ウィリアムズは、アビゲイルを「あくまでも、息子を取り戻すためにありとあらゆる努力をする女性」と説明しつつ、「当初は70年代の女性を描いているという解釈でしかなかったけれど、演じていくなかでまぎれもなく現代の女性を描いているという気付きを得たの。勝算がないなかで性差別が横行する男たちの世界に足を踏み入れ、彼らのゲームのルールにのっとって子どもを取り戻さなくてはならない。それは間違いなく“いま”に通じるものだと思うわ」とキャラクターの普遍性について強調する。
多くの困難に見舞われた作品ではあったが、ウィリアムズはプラマーとの共演を楽しげに回想し、スコット監督からも大いに刺激を受けたと語る。「エネルギッシュでいつもポジティブで、まるで初監督作品を撮っているかのような感じで毎日、意気揚々と現場に来ていたわ。どんな映画にするべきか、頭の中にカメラアングルから人の動きまで入っているんだけど、俳優陣に対して求めるのは『とにかく俺を驚かせてくれ! 定石通りのことなんてしてくれるな』ということ。『驚いた』というのが私たちに対する最大の賛辞なの。どうしたら彼を驚かせるのか?という使命感に燃えながら現場にいたわ(笑)」。
日本でも大ヒットを記録した「グレイテスト・ショーマン」、自身4度目のオスカー候補に選出された「マンチェスター・バイ・ザ・シー」、スパイダーマンの宿敵を描く「ヴェノム」(12月公開)と、どんな作品でも力を発揮できるポリバレントさが大きな魅力。本作でもアクシデントに動揺することなく、過酷な追加撮影を力強く乗り切った。何が彼女を奮い立たせ、突き動かすのか? 勇気の源は? そんな問いに、彼女は12歳のころ、アメリカ文学に多大な影響を与えた19世紀の詩人ウォルト・ホイットマンの作品を愛読していたと明かし、こう語る。「彼の詩が私の大部分を形成してると言っても過言ではないくらい、大きな影響を受けているわ。ホイットマンは、自分の声に耳を傾けること、自分の道を行くことを語っているんだけど、その言葉通り、自分の“核”をしっかりと持っていれば、周りに何を言われようとも自分の道を進むことができるということを常に意識してきた。もう1つ大事にしているのは、もしこの仕事で失敗し、作品が不評だったとして、私が被るのはせいぜい恥をかくだけなんだということ。その程度のことであれば、自分でもできるだろうって思って、あれこれ試しているわ」。
「ゲティ家の身代金」は、5月25日から全国公開。
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