「奪われてきた声を取り返したい」新世代監督が主人公に投影するジョージア女性の生き方
2018年2月2日 17:00

[映画.com ニュース]ソビエト連邦からの独立を果たした翌年、1992年のジョージア(グルジア)の首都トリビシの2人の少女の成長と友情をみずみずしく描いた映画「花咲くころ」が2月3日公開する。脚本を担当し、ジーモン・グロス監督と共同でメガホンをとったナナ・エクチミシビリ監督が作品を語った。
幼なじみの14歳の少女エカとナティアは、不足する生活物資を補う配給の長い列に並びながら、おしゃべりするのがささやかな楽しみだった。そんなある時、ナティアに思いを寄せている不良少年のコテがナティアを強引にさらい、結婚を強要。結婚したナティアは学校にも行かせてもらえず単調な日々を送るが、ある日、ナティアに思いを寄せていたもうひとりの少年ラドの身に悲劇が起こる。
エクチミシビリ監督自身の思い出をもとにした作品だ。「古い記憶を思い出して、設定を再構築し、かつて暮らしていた場所を探しだしました。そして撮影もその場所で行いました。当時、私も主人公エカと同じ14歳でした。エカは私の分身なのです」
「当時のジョージアはとても厳しい状況に置かれていました。電気、ときには水道、食べ物もなく、あらゆるものが不足して、人々は職を失い、互いにまともに接することができない状態でした。不幸の原因が自分にではなく、他の人にあると考えたかったのです。他の人とは家族や親戚、知人、政府などです。人々は無力感につつまれて、いつも声高でいらいらしていました。1992年の冬は、暖房もお湯もありませんでした。母は通りから薪を拾ってきました。暴力が日常茶飯事でした。でも喜びもありました。甥が生まれて、家族全員で育てたのです。あの時代は冬、闇、厳寒の時代ともいえますが、私はこの映画を冬にではなく、春に撮影したのです」

映画に描かれているジョージアと現在の状況は異なるが、更なる変化が必要だと訴え、かつて行われてきた誘拐婚についてこう語る。「眼に見えるところの改善だけではなく、社会や人々の心を変える必要があります。私たちは宗教や同性愛の権利などについて、より良い対話が必要です。女の子は実際に結婚のために誘拐されました。私はそのようにして結婚した無数の少女たちを知っています。20年前、私が10代だったときに、強制結婚による被害者の施設に行ったことを忘れられません。少年が少女を誘拐すると、少女は少年が本当に愛していると考え、受諾し、彼らの多くが結婚するのです。そして彼女の家族も結婚式では拍手喝采を送るのです。少年が少女をどれほど愛していても、この伝統は言い訳にはなりません。私は部屋に閉じ込められた少女が窓から飛び降りた事件を覚えています。今では誘拐婚はほとんどありません。でもジョージアではみんな若くして結婚します。若者たちは両親と一緒に暮らす習慣があり、自立する機会も少なく、親も子どもが早く結婚することを望んでいます。2013年の統計では、7000人の少女が結婚のために学校をやめました」
「ジョージアは戦争で負けた国です、2008年にも戦争がありました。戦争が続くと『私たちには力が必要だ。人々は子どもを持たなくてはならない。男は女を守らなくてはならない。女は敵に対して何もできない』と考えます。このような文化に対しては教育が必要です。ジョージアでは男女同権のとりきめや、女性の声に耳を傾けるという習慣は原則としてありません。私はけっしてフェミニストではありませんが、ジョージア女性から奪われてきた声を取り返したいのです。民主化のプロセスを進めなければなりません」
ジョージアはセルゲイ・パラジャーノフ、オタール・イオセリアーニら数々の才能や傑作を生み出してきた国としても知られている。「ジョージア映画は甦りつつあります。新しい世代の人たちが精力的に活動しています。多くは外国で教育を受けたのちに、ジョージアに戻って、私たちの国に何が起きたのか、あるいは何が起きているのかについて映画を撮っています。これは私たちの世代にとってとても重要なことなのです。私はジョージア映画が好きです。ソ連時代に見た面白い映画は、ジョージア映画かジョージアを舞台にしたもの。テレビや映画館で、サイレントから現代までのジョージア映画ばかりを見て育ってきたので、それらは私に影響を与えています」
「花咲くころ」は、2月3日から東京・岩波ホールほか全国で順次公開。
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