小津、黒澤、北野から影響受けた、セネガル系フランス人監督が描くアフリカのリアル
2017年12月15日 16:00
[映画.com ニュース]第67回ベルリン国際映画祭審査員グランプリ(銀熊賞)を獲得した「わたしは、幸福(フェリシテ)」が12月16日公開する。コンゴ・キンシャサを舞台に、シングルマザーの歌手の生き様から、現在のリアルなアフリカ文化を描き出す物語。セネガル系フランス人監督のアラン・ゴミスが来日し、作品を語った。
“幸福(フェリシテ)”という名前を持ちながら、幸福の意味を知らずに生きてきた主人公は、バーで歌いながらひとり息子を育てるシングルマザー。ある日、息子が交通事故に遭ったことに絶望し、歌うことさえできなくなってしまう。フェリシテの力強い生き方を軸に、キンシャサの熱気、人々の生活、音楽が一体となって立ち上る作品だ。
ゴミス監督はパリで育ち、15歳のときに初めてアフリカの地を踏んだ。「家庭の中は父のアフリカ系の雰囲気でしたし、母が地方出身で、母の家族は地方に住んでいたので、僕はどちらかというと、父のセネガル系の、アフリカのソサエティの中で過ごしました。そういう意味でいうと精神的にはアフリカの中で育ったと言えます」
自身のルーツであるセネガルではなく、コンゴを舞台にした理由は、キンシャサがアフリカ屈指の音楽活動が盛んな地であるからだそう。「キンシャサに行ってみたいという気持ちと同時に、恐れも抱いていました。神話的な街あると同時に、そこには暴力がはびこっていると聞いていたので、正直言って、最初は行くのが怖かったですね。でも現地で過ごし、その恐れは間違いだと感じるようになり、疑問を持つようになりました。キンシャサはとても豊かな場所であるにもかかわらず、なぜ貧困や暴力といった問題があるのだろうかと。それはすべてのアフリカの人が抱いている疑問です」
コンゴのシングルマザーたちの現状については、「コンゴだけではなく、西アフリカでは経済的状況から今までの伝統的な生活が破壊されてしまい、経済的理由から結婚するのが非常に難しい状況です。特に貧しい地区では、非常に若い時期に結婚をせずに子供を持ってしまう女性がすごく増えていて、しかも彼女たちが独立しようとしても非常に難しい状況がたくさんあります」といい、「今回、初めて女性を主人公にしたこの映画の脚本に取り組み始めて、女性たちのおかれている困難さを肌で感じることができました。しかしそれは、アフリカだけではなく世界中どこでも、辛い状況にある女性たちがいると思います」と振り返る。
12歳の頃に小津安二郎監督の「生まれてはみたけれど」を見て、深い感銘を受けたそう。「『生まれてはみたけれど』を小さな映画館で見て、今でもその衝撃を覚えています。特に子供と父親の関係です。父親は家では独裁的で偉ぶっているのに上司の前ではペコペコする。子供から見た、その父親の姿が印象的でした」と語る。小津の次に影響を受けたのは黒澤明で、「ストーリーテラーとしての才能が素晴らしく、歌うような話の流れ方と、俳優に対する彼の愛。それらは今でも僕をずっと惹きつけてやまないもので、黒澤監督は日本の古典を扱ったり、シェイクスピアを扱ったり、普遍的なものを扱っていると思います」
そして現役の日本人監督では、北野武の名を挙げる。「彼の画の力が素晴らしいと思います。画がこちらに迫ってくる感じ、時々フレーミングを変にするのですが、画面に引き込む力はすごいと思っています。そして、映画にはそれほど現れていないんですが、テレビで見て彼がユーモアのある人だということもわかりました。いま挙げた監督たちの映画に限らず他の映画も全てが僕の栄養になっていると思いますが、北野作品で素晴らしいなと思うところを付け加えると、顔が半分、少し不自由なため、表情が少し乏しくなるところを逆にうまく使っていることに感嘆します。いわゆるクレショフ効果と言われるもの。表情がないという意味でいうと、僕の今回の作品にもそのようなところがあります」
「わたしは、幸福(フェリシテ)」は、12月16日から東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。
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