【ソダーバーグ監督インタビュー:後編】「ローガン・ラッキー」のために新会社まで設立!?
2017年11月24日 09:00
[映画.com ニュース] 2013年の映画監督引退宣言を撤回し、「ローガン・ラッキー」(公開中)で4年ぶりに映画界へ帰ってきたスティーブン・ソダーバーグ監督。前回のインタビュー記事では、本作を「映画の世界に再び連れ戻してくれた“友人”」と評し、映画製作への衰えぬ情熱を垣間見せた。それほどに映画製作に焦がれながら、なぜソダーバーグ監督は映画界から身を引こうとしたのか? 後編となる今回は、引退宣言の真意や、映画製作にまつわる“問題”を克服するべく、ソダーバーグ監督が劇中のローガン兄弟さながらに編み出した驚きのプランに迫っていく。
不運続きのジミー(チャニング・テイタム)とクライド(アダム・ドライバー)のローガン兄弟が、“爆破職人”でもある囚人ジョー(ダニエル・クレイグ)を脱獄させ、全米最大のカーレースの売上金を盗み出そうとするさまを描くクライム・エンターテインメント。上記キャストに加え、ライリー・キーオ、セス・マクファーレン、ケイティ・ホームズ、キャサリン・ウォーターストン、ヒラリー・スワンクら実力派スターが結集した。
多くの作品で監督・撮影・編集を兼任し、作品作りにおいて、“コントロール”を重要視するというソダーバーグ監督。自身のカラーをしっかりと打ち出した製作スタイルを標ぼうしてきたが、ブロックバスター作品(メジャー映画会社による大作)を多数手がけることによって徐々に自由度が制限されるようになり、限界を感じていたそうだ。ある意味売れっ子監督の宿命ともいえるが、ソダーバーグ監督にとっては看過できるものではなかった。
「マーケティングはどうやって行われるのか、製作物はどのようなものが作られていくのか、そして資金がいつ、どのような形で使われるのかということを自分自身が確認できるかどうか。どういった風にさまざまな収益が集められて、関わった人々に配分されていくのか、自分できっちりと管理して透明性をもって見られること。実は、これらができなくなったのが、長編映画から身を引いた理由でもあったんだ。自分の作品が拡大公開されてしまうと、どうしてもコントロールできなくなってしまうからね。一旦映画から引退すると言ったのは、当時はそれしかないという苦渋の思いで行ったことなんだ。映画のことは今も昔も愛しているよ」。当時を述懐したソダーバーグ監督は、「でも、今はハッピーだよ」と満面の笑みを浮かべる。「自分の条件で戻ってくることができたし、ほかの人のビジネスコンセプトに合わせなくてもよく、自分ならではのやり方で仕事できているから、とても快適なんだ」。
ソダーバーグ監督は今回、新たな試みとして、米国内の配給を行う会社フィンガープリント・リリーシングを設立。これにより、企画から公開に至るまでのすべての行程を掌握し、監督が志す“コントロール”が可能になった。「今回はAmazonに劇場面の権利を買ってもらい、そこで得た利益をマーケティングに回しているんだ。契約を金融機関に持っていってローンを組み、本作を作ったんだよ。Amazonは今までであれば全権を買うというのが通例だったから、今回のように部分的に買って、支払ったものが別の用途に使われるという試みをまとめるのに時間はかかったね。ただ、Amazonから“今後の作品も同じ形態でやろう”と言ってもらえたから、彼らにとっても悪い契約ではなかったと自負している」と総括したソダーバーグ監督は、新たなチャレンジに手ごたえを得た様子。
ソダーバーグ監督の大胆にして周到な“復帰計画”は、同業者にも衝撃を与えたようだ。「実際にこの映画のあと、さまざまな監督から電話がかかってきて『もっと教えてくれ』と言われたんだ」と明かしたソダーバーグ監督は、「未来に目を向けると、このようなアプローチを取るのは僕だけではなくなるだろうね。ある監督にとってはすごくメリットの多いやり方でもあるし、これからもっともっと増えていくんじゃないかと思うんだ。ストリーミングという新たな形態が台頭してきたおかげで、これまでにないアプローチをとられるようになってきた」と先を見据える。実際、ソダーバーグ監督は次回作「Mosaic(原題)」ではアプリと連動し、視聴者の意見で結末が決まるという実験を行い、その次に控えている「Unsane(原題)」ではiPhoneで全編を撮影するなど、映像表現の可能性を開拓し続けている。また、プロデューサーとしても、「オーシャンズ」シリーズの女性版「オーシャンズ8(原題)」が待機中だ。
ハリウッド随一の“革命家”ともいえるソダーバーグ監督は同時に、最後まで作品と添い遂げようとする愛情深い人物でもある。最後に、過去作「コンテイジョン」を例に挙げて、“こだわること”の重要性が伝わるエピソードを披露した。「『コンテイジョン』のときは当初、2時間20分くらいのものを作ったんだが、編集がまったくうまくいかなくてね。何バージョンも作ってみたんだが、映画として成立しない。相当フラストレーションが溜まっていたときに、映画監督であり脚本家でもある友人が、『もし銃を頭に突きつけられて90分のものを作らなければならないとしたら、君はどの部分を残す? そういう実験をやってみたらどうかな』というアドバイスをくれてね。それでやってみたら、本来あるべき構造が立ち現れたんだ! プロットの大部分を捨てることにはなるんだが、90分に編集したものに、追加撮影したものを足していけばいけるぞ!と初めて光が見えたのさ。そこから僕が学んだのは、“すべて事前にはわからない”ということなんだ」。
アイデアマンとしても超一流のソダーバーグ監督。リラックスした空気が心地よい「ローガン・ラッキー」を経て、次はどんな世界を見せてくれるのか。映画ファンにとっては、彼の帰還こそが最高のプレゼントといえるのかもしれない。
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