煩悩に翻弄される僧侶が世界を魅了!「仁光の受難」庭月野議啓監督「全世界の人を観客に想定」
2017年9月22日 17:00
[映画.com ニュース] 女性にモテすぎて煩悩に苦しむ実直な僧侶の苦悩をコミカルに描き、世界の映画祭で注目を浴びた映画「仁光の受難」。映画.comでの劇場公開決定ニュースでは、自主制作の新人監督の作品としては異例の2500超のリツイート数を記録し、国内の映画ファンの期待も集めている。9月23日の公開を前に、庭月野議啓監督に話を聞いた。
映画は、誰よりも修行に励む真面目な性格だが、女たちに異常にモテる僧侶の仁光と、刀に魅入られ人斬りとなった侍、そして男の精気を吸い取る妖怪が出会う摩訶不思議な世界を、実写と浮世絵風のアニメーションを交えて描いた異色の時代劇コメディ。主演は俳優だけでなく映画監督としても活躍する辻岡正人。
フリーの映像ディレクターとしてCMやミュージックビデオなどを手がけてきた庭月野監督。今作はクラウドファンディングを活用し、4年の歳月をかけて完成させた長編デビュー作で、これまでの日本映画でありそうでなかった設定が話題を呼んだ。
「過去に作った短編作品で国内のインディペンデントの映画祭に参加して、自分自身が観客として、日本の自主映画の現代劇に食傷気味になってしまって。だから、自分が長編を撮るときには、目新しい題材で撮らなきゃだめだと思ったんです。そう考えた当時、京極夏彦さんの小説をよく読んでいて。京極さんの小説は時代劇であると同時に妖怪小説なので、侍が出てこない作品もあるんです。それで、侍が出ない時代劇が成立することがわかって、映画でもできると思いついたんです。京極さんもモチーフにされていた、女難の僧侶が殺されて妖怪になるという民話や、ブッダの弟子の美僧の話、江戸時代に実際にあった延命院事件なども参考にし、怪談とモテるお坊さんという要素を組み合わせました」
主人公の心境を浮世絵や曼荼羅を用いたアニメーションで表現し、実写のエロティックなシーンもコミカルに描写した。「ナレーション以外の女性キャストは全員脱いでますから(笑)。長編デビュー作ですし、僕の名前ではお客は呼べないので、とにかく面白い要素をいっぱい詰め込んだ感じです。時代劇にアニメーションが混ざっているって楽しそうじゃないですか」と言うとおり、海外の映画祭ではあらすじだけを見た観客が上映に殺到。70分という短さも、鑑賞のハードルを低くした。「新人監督の2時間ものを見るのは賭けになっちゃうと思うので(笑)、お試し版みたいな感覚でこの長さにしました。冗長になりがちな間(ま)はどんどんカットして、テンポに気をつけたので、想定より短くなりました。編集中はずっと、見る人を楽しませたい、退屈させたくないということを考えていましたね」。
かつて漫画家やゲームクリエイターを目指し、大学入学後に初めて撮った作品が、学内で評判になったことが映像制作に進んだきっかけだ。また、若手の映画監督にしては珍しく、シネフィルではないという。だからこそ、伝統的な映画の文法に則らない新感覚の作品に仕上がったのだろう。「漫画やゲームや小説が好きで、とにかく自分で物語を作ることに興味があって。アニメもたくさん見ますし、いろんな好きなチャンネルがあったのでこういう作品になったと思います。あと、実はそんなに多くの映画を見ていないんです。そこが僕の強みでもあるけれど、コンプレックスでもある。世代的なものだと思いますが、映画が好きになったきっかけはハリウッド映画ですし、小津や黒澤など巨匠の作品もあまり多くは見ていなくて……。だから、映画をよく見る人には、カット割りが独特だと言われますし、自分でもアニメっぽいカットだと思うんです。そういう面でも、今後びっくりさせるようなものを作りたいですし、国際的に受け入れられるものを作りたい」と話す。
新作の企画として、ミステリー作品を撮りたいと熱望している。今作がロッテルダムや釜山をはじめ、国や文化を超えて注目されただけに、次回作への期待も高まる。「今は短編をネットに上げれば、全世界が見られる時代。そういう時代にローカルにうける作品だけを作ったり、見せる対象を日本や日本人だけに限定するのはもったいないと思っています。今後も全世界の人を観客に想定して作品を作りたいですね」
「仁光の受難」は9月23日から角川シネマ新宿で公開。
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