ドランら“ミレニアム世代”の旗手カテル・キレベレ、「あさがくるまえに」に込めた“生の光”

2017年9月15日 09:30


長編映画監督は本作で3本目
長編映画監督は本作で3本目

[映画.com ニュース][映画.com ニュース] フランス国内で数々の文学賞に輝いたメイリス・ド・ケランガル氏のベストセラー小説を原作に、心臓移植という現実に直面した家族、恋人、医療関係者たちの姿を描くフランス映画「あさがくるまえに」。6月に開催されたフランス映画祭での上映のために来日した、新鋭監督カテル・キレベレに話を聞いた。

交通事故で脳死となった青年・シモン(ギャバン・バルデ)。心臓に疾患を抱える音楽家のクレール(アンヌ・ドルバル)。彼らの家族や恋人たちの葛藤、医師や移植コーディネーターたちの働きを、シモンの事故から24時間という時の中で描き出していく。

原作を脚本化するにあたって「医学的、科学的な部分を正確に緻密に描くこと。立場や生きている場所の異なる登場人物たちが1つの体験を共有しますが、それぞれの感情をどう描写するか? それまで生きていた人がいなくなる――そのことに携わる人々の視点の違いをきちんと描くこと。これらの点を重視しました」と語るキレベレ監督。

小説では後半、心臓を提供する側(ドナー)であるシモンの側の物語に多くのページが割かれているが「映画ではシモンと(提供される側の)クレールのウェイトを同じくらいにする方がいいと思いました」と1つの心臓を通じて描かれる“死”と“生”を同列に描くことを意識したと明かす。

映画では、心臓移植手術がリアリティをもって描かれるが、強いメッセージを込めて、あえてこうした描写を選んだ。「心臓は筋肉の塊であり、ポンプの役割を果たす臓器、“モノ”であるんですが、同時にミステリアスな部分を持つ、感情のメタファーでもある。それをきちんと描くために、シモンと恋人の関係、クレールと元恋人との愛情関係、そしてリアルな臓器としての心臓をしっかりと見せる必要があると思いました」。

本作に限らず、映画を作るうえで“生と死”といったテーマ性にひかれるという。「理由はわからない」と笑いつつ「これまでの映画で、一貫して大切な人を亡くしたり、絶望や喪失に襲われる人々を描いてきました。でも、立ち直れないくらいの深い哀しみ、打撃に見舞われても、それでも人は死なず、生きていく。どうやって自分を立て直し、もう1度、生に向かっていけるのか? 生きる以上は光を見つめて生きていかなくてはいけないし、それは“いま”という時間がつらく、大変だからこそ、そうなるんだとも言えるかもしれません」。

映画監督を志したのは17歳の頃。いまではグザビエ・ドランらと共に、新しい時代を担う“ミレニアム世代”の映像作家とも称される。当人は「そうしたカテゴライズには興味はないし、自分がどう分類されていようが構わない」とそっけないが「ドランが若き映画人として素晴らしいのは事実だし、彼の作品(『Mommy マミー』)で素晴らしい演技をしているのを見たからこそ、アンヌ・ドルバルを起用できて、感謝しているわ」とも。

そして「私たち、若い世代の映画人は時代的に、不況の影響を受けながら映画を作っています。昔の巨匠たちのような映画作りはできないし、どれくらいの時間とお金が必要なのかという、映画作りのシステムを熟知していないと、自分の作品を作ることができないという認識は強くあると思います」と続ける。

そんなキレベレ監督が、好きな監督の1人として挙げるのがガス・バン・サント。「ハリウッドの映画産業のシステムの中で生きながら、さまざまな実験的な作品を作っている。システムの中にいながら常に“自由”を映画にもたらしている、その在り方はすごいと思います」。閉塞感に満ちた時代に、映画を通じて“自由”という風穴を開ける新世代の映画人たちのさらなる活躍を待ちたい。

あさがくるまえに」は、9月16日から東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。

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