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永瀬正敏、ジム・ジャームッシュ作品と27年ぶりの運命的な邂逅「奇跡のような作品」

2017年8月25日 20:00

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永瀬が演じるのは日本から来た詩人という独創的な役柄
永瀬が演じるのは日本から来た詩人という独創的な役柄
Photo by MARY CYBULSKI (C)2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

[映画.com ニュース]米インディペンデント映画界の伝説的監督、ジム・ジャームッシュの第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作「パターソン」(2016)が8月26日公開する。日本を代表する映画俳優の永瀬正敏が、「ミステリー・トレイン」(1989)以来、27年ぶりにジャームッシュ作品に出演。ニューヨーク郊外の町に突如現れる日本から来た詩人という独創的な役柄で、主演のアダム・ドライバーとともにジャームッシュならではの詩的な世界観を完成させている。唯一無二の存在感で、世界の映画作家に愛される永瀬に話を聞いた。

ニュージャージー州の小さな町、パターソンに妻とふたりで住む、バス運転手のパターソンという名の青年が主人公。単調な日々の中でも、詩人でもあるパターソンは日常のすべてから美しさを掬い上げることができる。そんなパターソンの7日間をユーモラスで優しい語り口で描いた珠玉の佳作だ。

永瀬が演じたのは、物語の終盤でパターソンが出会う謎めいた日本人の詩人役。ジャームッシュ監督から直接メールでオファーがあった。「『ミステリー・トレイン』で縁が切れてしまうのではなく、20数年間節々で繋がってお付き合いさせていただけることだけで光栄なのに、今回僕を思い出して役をあててくださった。なんともいえないうれしさがありましたね」と感慨深げに語る。

1981年のベルリン映画祭で絶賛された長編デビュー作「パーマネント・バケーション」から、抜群の映像と音楽センスでカリスマ的な人気を誇り、ミステリアスな雰囲気をかもし出すジャームッシュ監督とはどんな話題を共有しているのだろうか。

「主に、友人同士がするような近況報告ですね。ジャームッシュは自分の友人をたくさん紹介してくれるので、その人たちからの伝言だったり、今どんな音楽を聞いているかだったり。お互い自分の作品についての話はほとんどしません。『ミステリー・トレイン』の撮影中には、小津安二郎監督の話はよくされていました。小津さんの本を読んでいらして、『永瀬、この“間”って何だ?』『“無”って英語でどういう意味なんだ?』とか聞かれましたね」

劇中でアダム・ドライバーとは、英語でのセリフの掛け合いを披露している。インディペンデントの良作からエンタテインメントの大作まで、縦横無尽に様々な役をこなすドライバーのしなやかさは、永瀬の活躍とも重なるところがあるのではと話を向けると、「僕とは比べ物にならないですよ。フォースを使えるんですから(笑)」と冗談めかして謙遜する。

「ジャームッシュが選ぶ役者らしいと思いました。アダム・ドライバーをバスドライバーにキャスティングするのもすごいし(笑)。様々な監督の作品に出ていて、大きなハリウッド映画に主演も。でも、彼は現場に一人で来ているんです。今回はちゃんと、バスの運転の練習もしてね。エージェントを何十人と連れてきたっていいような人なのに、ひょっこりその辺を一人で歩いているんです。そういった意味でもジャームッシュが選ぶ人は、やっぱり素晴らしいなと思うんです、僕は置いといて(笑)」

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世界のどこにでもいそうなバスドライバーの日常と文学をテーマにした作品だ。言葉だけでなく、主人公の生活の些細な出来事や、スクリーンに映される小さなオブジェ、色彩さえも詩的だ。

「パターソンの着ている制服、寝具、僕の役のスーツなど、ブルー系が多くて、そこに何かがあるのかなと。ジャームッシュは『ミステリー・トレイン』のときは真っ白なのを嫌がったんです。白いシーツを一度グレーに染めたりして。そういう色彩設計にとてもこだわりを持っている方。今回は、藍色がくすんだようなブルーの使い方がとても印象的で綺麗だった」と述懐する。

「彼の人生がポエトリーなんです。だから、この映画を見られることの幸せをすごく感じる。闇のどこかをクローズアップするような作品はメッセージが伝わりやすいし、ヒーローものや壮大なSFものも、それはそれで僕はエンタテインメントとしては大好きだけど、ジャームッシュはそういう大きな幸せや不幸せを描くのではなく、日常の淡々として小さな幸せを積み重ねていけば、こんなに素敵なものになるんだというのを表現する。それって、簡単なようで、ものすごい力量が必要な難しいこと。『素敵だね』とか『壁紙変わったね』って声をかけるような、ちょっとしたことで主人公の奥さんが幸せになる。そこが大事。本当に奇跡のような作品だと思います」

確固たる信念と作家性をもつ世界の監督から愛され続ける演技派俳優として、第一線で活躍する永瀬。一癖ありそうな鬼才たちとはどのように対峙するのだろうか。「役者として自分は真っ白でいて、監督に色を塗ってほしいんです。自分のなかの小さな宇宙だけでは限界がありますから。だから、いつも新しい発見がある。『これしかできない』っていうことは絶対言いたくないんです。それは若いときに、アジアのいろんな監督とやらせてもらったのが良い経験になったのかもしれません。単身で行っていたので、日本の理屈は全く通じなかった。だから、僕自身を染めてもらったほうが俄然いいですし、それを毎回楽しんでいます」

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16歳でのデビュー作「ションベン・ライダー」(1983)を撮った相米慎二監督からの影響は計り知れない。「当時、相米さんには、名前で呼んでもらったことはなく、ゴミみたいな呼び方されていました(笑)。それでも憎めないところがある不思議な人。撮影中も、『コノヤロー!』なんて言ったりしていたけれど、でも大好きでした。大人の目線で子供を見下しているわけではないというのは、子供ながらにわかっていた。いろいろやられましたが、愛情のある厳しさだった。相米さんの現場には何度も陣中見舞いに行ったし、ご飯食べに行った時の何気ない一言が今でも胸に深く染み込んでいます。今の僕があるのは相米さんのおかげ」と役者としての基盤を厳しく叩き込まれた、夭折した名匠へ敬意を表す。

映画俳優を目指し、永瀬にあこがれる後進は星の数ほど存在するだろう。表現者として大事にすべきことは「信じることと諦めないこと」だという。「役者になりたい人には、『諦めないでね』と言います。諦めたらそこで終わってしまうので。見る方でも出る方でも、僕は、映画に裏切られたと思ったことはないです。それは、映画をずっと信じているから。ある時期ずっと仕事がなくて、全くご飯が食べられないこともあったけど、一日映画館にいられて、逆にラッキーみたいな(笑)。そういう時期に見たり感じたことが宝物になったりするので、映画を信じることと自分で限界を作らないことが諦めないことなのでは。僕自身もまだまだ途中だけれど……」

最後に、映画とは?と尋ねてみた。「僕にとっては光。映画は永遠になくならないと思います。先輩方の作品が今でも見られるように、なくならないものだと信じています。映画がなくなったら、自分が終わってしまうような感覚がある。いつまでも呼んでもらえるようにがんばりたいですね」

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