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アブノーマルなヒロインを演じたI・ユペール、鬼才バーホーベンのメガホンは「完璧で素晴らしい選択」

2017年8月24日 16:30

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今年のアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた
今年のアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた

[映画.com ニュース]「ロボコップ」「トータル・リコール」など映画史に残る傑作を生み出した鬼才ポール・バーホーベンがメガホンをとり、主演のイザベル・ユペールが世界の映画祭で受賞、絶賛された話題作「エル ELLE」が8月25日公開する。これまでの映画には存在しなかったと言っても過言ではない、美しく成熟した大人の、アブノーマルなヒロインを熱演したユペールが、作品と鬼才とのタッグを振り返った。(取材・文/編集部 写真/間庭裕基)

ゲーム会社のCEOを務めるミシェルはある日、自宅で覆面の男に襲われる。取り乱すことなく、防犯対策など現実的に対応し、泣き寝入りも被害者面もせず、自分の力で築きあげた生活を自分の思うがままに生きていくミシェル。しかし、犯人探しをするうちに、ミシェルの複雑な本性が明らかになっていく。

劇中では暴力的なシーンも少なくないが、軽妙なユーモアを交えて見せており、本作が一流のブラックコメディとしての側面を持った作品であることがわかる。コミカルなシーンの大部分はユペール自身が提案した。「ユーモアの使い方について、私がかなりアイディアを出しました。撮影中と同じ印象を完成後の作品にも見ることができ、成功したと思います。ミシェルの状況を考えて、観客がセンチメンタルになってしまうと、様々なシーンで居心地が悪くなってしまうもの。ユーモアが入ると、観客が物語と距離を持つことができ、受け入れやすくなると思うのです。厳密に計算され、ユーモアがあり、作品そのものがあるべき位置に収まっています。この映画は、恋愛作品ではありません。主人公はレイプという暴力の後に、誰の支援もなしに、ひとりで復讐の計画を立てるのです。そういった展開もユーモアによって救われていると思います」

ベティ・ブルー 愛と激情の日々」のフィリップ・ディジャンの小説「oh...」を実写映画化したもの。原作のある作品で、監督、ユペール、脚本家が抱くミシェルのキャラクター像を一致させることは容易だったのだろうか。

「私は長年この小説の映画化を希望していて、(プロデューサーの)サイード・ベン・サイードが権利を買い、監督がバーホーベンに選ばれたことを知って、完璧で素晴らしい選択だと思いました。脚本も原作にものすごく近い、素晴らしい出来でしたので、これは良い映画作品になると確信したのです。撮影に入る前、互いに人物像について意見を交換したりするようなことはありませんでした。私と監督の間で議論も対立も全くなく、撮影をしながらミシェルという人物像をお互いに発見していきました」

画像2(C)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINEMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

当初ハリウッドで映画化される企画であったが、「これほど道徳にとらわれない映画に出演してくれるハリウッド女優がひとりもいなかった」(バーホーベン談)という理由、そしてユペールが出演を望んだことからフランス映画として製作された。フランスを代表する大女優として、フランス映画界の特出している点を挙げる。

「フランス映画界の優れた特徴は3つの言葉で言えると思います。まず、豊かなこと。お金があるという意味ではなく、才能が豊かであるということ。2つ目は、思い切った作品があること。例えばこの作品です。モラル的にいろいろと言われることがありますが、フランス映画にはその限界をはずすような、勇気があります。そして、多様性。作家主義の作品もあれば、商業主義の作品も等しくある幅広い世界なのです」

ユペール自身も、過去の代表作でもある「主婦マリーがしたこと」「ピアニスト」など、世界的名匠の作品で、自分の限界をはずすような一筋縄ではいかない女性を演じてきた。「ミシェルは、思い切った行動に出る女性で、つかみどころのない、複雑な人物です。はっきり言って観客に受け入れられるような人物ではないと思うのです。私はこういったキャラクターをクロード・シャブロルミヒャエル・ハネケの作品でも演じています。私が理想化された人物ではない女性を演じることが、フランス人女優的だと見ていただけるようでしたら、それにはとても満足しています」

本作のラストには、原作には無かったエピソードが加えられている。「最後のシーンが加えられたことで、なにか光が差し込むような感じがする、素晴らしいアイディアだと思いました。特に、敬虔なカトリック信者であるレベッカの最後のせりふで、女同士の関係が見えてくると思いますし、友情が固く結ばれるのです。これまでの普通の価値観では、この作品で起こった出来事の後の女性同士は、話もしない関係になると思うのですが、友情が繋がるのです。女性同士の関係が強いということを示すシーンになっていると思います」

ミシェルの強さとは反対に、定職につかず子供ができても母の脛をかじる息子、ミシェルの会社へ仕事を求める元夫、同僚からの不倫の誘い、卑劣な行為に出る部下……と男性登場人物の弱さや愚かさが浮き彫りになって見えるが、決して男性たちを軽蔑する存在として描いてはいないと断言する。「男性たちは弱いのですが、軽蔑されてはいませんし、軽蔑されるような存在ではないという描き方がされています。監督自身が、男性たちを人間として尊重しています。ただし、ミシェルの親友の夫だけは卑怯な描かれ方をされています。それ以外の元夫や息子はシンパシーを持てるような人物として描かれていると思います。そういった男たちに対してミシェルはとても寛大な態度を示します。レイプ犯も病的な側面として描かれているので、決して軽蔑の対象としているわけではないのです」

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