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特集上映開催! アニエス・バルダが代表作、夫ジャック・ドゥミを語る

2017年7月21日 15:00

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アニエス・バルダ監督
アニエス・バルダ監督
Photo:Takeshi Miyamoto

[映画.com ニュース][映画.com ニュース]ヌーベルバーグを代表する夫婦の映画作家、ジャック・ドゥミアニエス・バルダの特集上映「ドゥミとヴァルダ、幸福(しあわせ)についての5つの物語」の開催を記念し、バルダが代表作と夫ドゥミについて語った。

--「5時から7時までのクレオ」(1961)について。撮影はどんな形でされたのでしょうか。
「映画の撮影ではふつうコストを下げるために、セットの都合で撮る順番を変えますが、この映画でわたしは物語の順序通りに撮影をしたいと思いました。わたし自身も時の経過を感じたかったから。そしてクレオ役のコリーヌ・マルシャンにとっても、それはとても大事だと思ったからです。彼女の身体のなかで乗じる変化をフィルムに納めるために。実際彼女は撮影中、7キロも痩せたのです。わたしが痩せろと言ったわけではありませんが、自然に役になりきっていくなかでそうなったのです。また彼女はこの映画の中で、吹き替えではなく、自分の声で歌っています」
--当時戸外での動き回る撮影というのは、難しくはありませんでしたか。
「撮影自体はそれほど難しいものではありませんでした。みんなTVの撮影だと思って、じろじろ見たぐらいで。この映画では歩くシーンが沢山出てくるので、リズムがとても大切でした。それでわたしは、ジャック・ドゥミの『ローラ』で素晴らしい音楽を作曲してくれたミシェル・ルグランに音楽を頼みました。編集中から彼に見せて、テーマとなるような曲を考えてもらったのです。彼はとても素敵な音楽を生み出してくれました。とくにラストで彼女が恋人に会いに行くシーンでは、その歩調に合わせて軽妙なリズムになります。クレオの心配を和らげてくれるような雰囲気があり、わたしはとても気に入っています」
--「幸福」(1965)についてですが、この映画のなかの幸福はとてもはかないものです。それはあなたの幸福というものの概念を反映しているのでしょうか。

「そうですね。まずこれは幸福のひとつの形としての表現です。つまりあの家族は、雑誌でよく見かけるような、夫婦と子供の幸福な家庭の風景といったものを象徴している、いわばユートピアです。もちろん、この映画が作られた当時の社会を反映していますから、携帯も冷蔵庫もない、質素な暮らしですが。彼らは自然を愛し、所有欲がなく社会的な野心も持たず、幸福なのです」

「もっともその一方で、幸福とははかないものです。わたしが考えるに幸福とは、“幸福への欲望”なのだと思います。人はよく控えめに“愛”という言葉を用いますが、愛とは本来欲望です。フランソワはテレーズを欲し、彼女と結婚します。でもそれで欲望がなくなるわけではない。そして彼は社会的にも個人的にもモラルに縛られないので、他の女性も欲する。果たして誰がその欲望を完全に満たすことができるのか、それは難題です。一方妻は、そんな夫にノンと言いたいものの、『あなたが望むなら』とぐっと堪えます。でももちろんそれは簡単なことではありません。ですからこの映画は、人はそれぞれ自分のモラルを作り上げなければならないと語っているのです」

「幸福」の一場面
「幸福」の一場面
(C)agnes varda et enfants 1994

「この映画の幸福ははかないものながら、わたしはそこに何か尊く美しいものをもたらしたいと思いました。それらをどう映画のスタイルとして表現すれば良いかと考え、さまざまな色で表現することにしました。とくにここではフェードアウトをカラーにしました。フェードアウトはふつう黒なので、この映画の前には誰もカラーでやったことがありませんでした」

--「ジャック・ドゥミの少年期」(1991)について。これはフィクションと、ドキュメンタリーとが混ざったユニークな形式をとっています。こうしたフォルムを選ばれたのはなぜですか。

「フィクションで描いたジャックの少年期は、彼がわたしに語ってくれた通りに表現しました。彼はわたしを信頼して、「君が映画を作りなさい」と言ってくれた。それでわたしはこのミッションを引き受けたのです。まるで彼が観客に語りかけるかのように彼の思い出を描きたかったので、現在の彼の映像の合間にフィクションで彼の思い出を描きました。でもそれをどう語るべきか、と考えて、当時の技術のままに幼い時代はモノクロで描くことにしました」

--現場での彼はどんな様子でしたか。

「ジャックは彼の弟と母親とともに撮影を見に来ていたのですが、とても幸せそうでしたよ。ナントでの撮影は、ジャックの実家のガレージを使いましたから。ガレージもアパルトマンもそのまま残っていました。その頃ジャックは歩くのも辛いほどになっていましたが、自分が愛した少年時代に戻ることは彼に強さをもたらしたと思います。スタッフもみんな、そんな彼をとても尊重して気遣ってくれているのがわかりました」

「この映画はフランスの教育省の選定で、学校で生徒たちに見せることになりました。ジャックは小さい頃から映画を撮りたくて、いろいろと自分で発明していた。その熱にほだされて、両親はついに折れて彼の望みを叶えてやったのです。とても美しい話ですよ。ですから教育の場でこうした映画が紹介されるのは、喜ばしいことだと思います」

--あなたにとって夫であり映画監督だったジャック・ドゥミという人物は、どのような方でしたか。

「彼とはつねに映画のことを話していました。でも自分たちがそのとき制作中のそれぞれの作品のことだけは、お互い話さないようにしていました。脚本が書き終わったら見せ合うことはありましたが、途中で見せて何か意見を訊くというようなことはしませんでしたね。ジャックは、仕事というのは孤独な作業だとわかっていたからです。クリエーションとは孤独なものだと。もちろん、映画の現場はスタッフと作るものですが、その前にはひとりで集中する時間が必要なのです。それ以外では、人生の伴侶として共犯関係にありました。わたしにとってもちろん大切な相手でしたし、お互い愛し合っていましたし、寝食を共にし、一緒に子供を育てました。わたしの前作、『アニエスの浜辺』のなかでも語っていますが、愛する相手と仕事の仲間とは違うものです。愛があり、それとは別に仕事があるのです」

--あなたは現在、アーティストのJRとコラボレーションするなど、映画製作とともに現代美術の領域でも活躍されています。そのエネルギーやバイタリティはどこからくるのでしょうか。

「それは持って生まれた性分なのではないかと思います。たしかにわたしはエネルギーがある方かもしれません。でもそのエネルギーをどこに注ぐかは、選ばなければならない。ジャックが死んだとき、わたしは一切のエネルギーを自分の仕事に集中させようと思いました。他のことを考えなくて済むように。あとはわたしの性分として、人に対して興味があるということが挙げられます。わたしは人を観察するのが好きですし、人と話すのが好きです。だから『落ち葉拾い』のような作品を撮るのはとても楽しい。人間に対する興味、好奇心が根底にあるのだと思います」

--あなたはこれまで数々の賞を受賞されてきました。こうした受賞は、作り手として励まされる、モチベーションを与えられるものですか。

「たしかにこれまでいろいろな賞を頂きました。なんとか金賞がたくさん(笑)。でもわたしにとってそれよりも大切なのは、市井の人たちに映画を気に入ってもらい、メルシーと言われることなのです。ブラボーではなく、メルシー。つい先日も、近所を歩いていて、通りがかりの女性からそう言われました。あなたの映画が幸福を与えてくれた、映画を見る喜びを知った、ありがとう、と。わたしにとってはそれこそがもっともうれしいことです」

「ドゥミとヴァルダ、幸福(しあわせ)についての5つの物語」は、7月22日から、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。劇場正式初公開作で、ドゥミ監督、ジャンヌ・モロー主演「天使の入江」、ドゥミの長編デビュー作「ローラ」のほか、バルダによる「ジャック・ドゥミの少年期」「5時から7時までのクレオ」「幸福(しあわせ)」の5作品を上映する。

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