授賞式ボイコットで話題、イランのA・ファルハディのオスカー受賞作主演女優が来日
2017年6月9日 14:00
[映画.com ニュース]第69回カンヌ映画祭コンペ部門で男優賞と脚本賞を受賞、第89回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した、イランの名匠アスガー・ファルハディ監督の最新作「セールスマン」が6月10日公開する。ファルハディ監督は、1月にトランプ米大統領が出したイスラム国家7カ国への入国制限措置に抗議し、アカデミー賞授賞式をボイコットし世界の関心を集めた。主演女優のタラネ・アリドゥスティが来日し、当時の状況と作品について語った。
小さな劇団に所属し、アーサー・ミラーの戯曲「セールスマンの死」の舞台に出演している役者の夫婦。ある日、自宅で夫が不在中に、妻が何者かに襲われる。事件が表ざたになることを嫌がり、警察へ通報しようとしない妻に業を煮やした夫は、独自に犯人を探し始めるが、夫婦の感情が次第にずれ、事態は思いがけない方向へと転がっていく。
ファルハディ監督の授賞式ボイコットの声明に先んじて「イラン人へのビザ発給停止は人種差別」だとtwitterに投稿した。「私は差別的な措置をするような国には行きたくないと思っていたのです。実際、トランプ大統領はイラン人の入国制限をかけ、その後作品のノミネートが決まりました。私が抗議をした後は、イランの人々から大きな励ましをもらい、勇気があると称えられました。その後は、グローバル的にも賛同の声が上がり、私が早い段階で抗議の声を上げたことが、その後につながり、自分の発言がいろんな人に伝わったのがうれしかったです」
そして、第89回アカデミー賞で見事外国語映画賞を受賞。ファルハディ監督と共に授賞式は欠席し、「米国に入国できなかった7カ国の人々を代表して感謝する」と代理人が読み上げたコメントが世界中の注目を集めた。「トランプ政権になって、アカデミー側も反発したい気持ちがあり、イラン映画に賞を与えるべきだと思っていたでしょう。イラン国内でも、映画が素晴らしいのはもちろんですが、政治的な賞でもあったと考えられました。アカデミー側の判断も素晴らしかったと思います」
ファルハディ監督の作品に出演するのは、今作で4本目となる。「とても細かいところにまで気を配った演出方法で、我々の生活を描きます。次から次へ自分の作品を研究し、どこが強くてどこが弱かったのかを自問し、新作につなげる監督です。役者には、脚本通りに演じることを要求しますが、とても頭のよい方なので、作品のためになると思ったら、我々俳優陣にも自由を与えてくれます」と、名匠との仕事を振り返る。
15歳のときに「ロミオとジュリエット」を観劇し、演劇学校に進み女優を目指した。現在は製作にも興味を持っている。「多くの映画を見るよりも、今は製作に興味があります。この映画はどう作られたのか、カメラの裏側はどうなっているのかそういう部分を見てしまって、純粋に物語を楽しむことができないのです。今は監督業に挑戦するより、脚本を書きたいです。自分は人間ドラマより、社会の権利などに興味があるのでそういった題材を描くと思います」
今回が初来日。短い滞在の中で、いくつも新鮮な驚きを感じていると話す。「モダンなのに伝統的なものを持っている面白い社会。すべてのものが新鮮に感じます。イランにはない小さなバナナを見ただけでとてもうれしくなりました」と可憐な笑顔を見せていた。
「セールスマン」は6月10日から、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開。
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