三島由紀夫に「ロックを感じた世代」リリー・フランキー&吉田大八が挑んだ異色SF
2017年5月30日 10:00
[映画.com ニュース]三島由紀夫の異色SF作を、「桐島、部活やめるってよ」「紙の月」の吉田大八監督が大胆な脚色で映画化した「美しい星」が公開中だ。火星人であると覚醒し、狂気の中に哀愁とおかしみを漂わせる主人公の大杉重一郎をリリー・フランキーが好演した。撮影当時の吉田監督とリリーはともに重一郎の設定と同じ52歳。三島の生きざまに「ロックを感じた世代」で、50代は「開き直って自由になれた」と言うふたりが対談した。(取材・文/編集部、撮影/間庭裕基)
吉田 リリーさんといつかご一緒したいと思っていたところに、ちょうど重一郎と同じ年齢だということも重なって、最初からリリーさんが演じることをイメージしてシナリオを書き始めました。
リリー 僕も、吉田さんの作品は本当に好きで。お仕事したいなという以前に、似たようなものが好きなんだなということは感じていました。こういう映画で、何かできると思っていなかったのでうれしかったです。しかも三島の作品で。
リリー 大八さんや僕の世代のサブカル祭り。「美しい星」が映画になって、僕らが原体験している好きなものがちりばめられてる感じ。特に当時の美術系の学生にとって、三島はポップスターでしたね。文学者以上のいろんな顔を持っていて。それで美しい文章を書く。
吉田 多面的ですよね。多くの作家が小説だけに専念していた時代に、確信犯的にいろんなことをやっていくかっこよさ。三島さんが亡くなったのは僕らが小1くらいのときなので完全なリアルタイムではないんですが、三島由紀夫という名前にどこか特別な雰囲気を感じていました。
リリー 小学生だったけれど、三島由紀夫が自決したってことはなんとなく認識していた。だから、最初からショッキングな出会いだった。
吉田 いろんなアーティストがいるけれど、自分の死に様まで演出した人はなかなかいない。そんな三島さんの小説の中でも、「美しい星」は異色。どこに連れて行かれるかわからないまま、呆然と置き去りにされて終わる、そんな読後のインパクトが当時の自分に強烈に刻まれてしまって。あれだけ丁寧に積み上げてきたものを、最後に全部ひっくり返す感じが鮮やかで、まず単純に「かっこいい!」と思いました。そのうち人に勧めるだけでは物足りなくなって、自分もこの作品にかかわりたい、この作品の一部になりたいという思いが強くなっていって。
リリー 僕らの世代にとっての三島って、その活動や存在がロックスターのよう。ロックを感じているから、自然とこの映画も音楽的になったと思います。
吉田 現場でもリリーさんと音楽の話をすることが多かったですよね。もしかすると映画より音楽で持てた共通項が多くて、感覚が共有しやすかった。
リリー 多分、僕らのもうちょっと上の世代だと、ハードロックだとかプログレだとか、音楽にロックの質実さを求められていたと思うけど、僕らの時代は、ニューウェーブ、パンク、テクノの頃。解放されたというか、多面的に音楽を取り入れていいという時代の最初の子供たちだったのでは。
吉田 自由になっていった時代ですよね。いいな、と思ったら、楽器弾けなくてもすぐにギター買って鳴らすんだ、っていう世代。「美しい星」を映画にしたい、って思ったのもそれに近い衝動だったのかも。
吉田 振り返ってみると、30代、40代のほうが不自由だった気がします。でも50代になると、それほど周りの目を気にしなくてもよくなってくるんです。だから、このタイミングでよかったなと。
リリー 若い時はなにかをやることに、どこかでものすごく個を出そうとして、そしてその同じ力で、自分が否定しているポピュラリティを持とうとしてたのかも。でも50代になると、ポピュラリティをあきらめることができるようになれた。それは、元来そうじゃない、という更なる気付きが起こるということ。
吉田 僕もそうです。やっぱり、自分が好きだった音楽はクラスで一人か二人くらいしか聴いてなかったな、とか思い出すんです(笑)。30、40代は多分、求められていることと、自分が好きなこと、できることのズレを埋めようとしてがんばったり、苦しんだりすると思うんですが、50代になると「もういいや、元々こういうのが好きだったし」って開き直り始める(笑)。
リリー 自分に対してのあきらめがついている。俺の心の根っこの腐ってるところは治らないとかね……(笑)。
吉田 もう取り返しのつかないことも多いから(笑)。逆に開き直って自由になれた気がする。迷いがなくなった気がします。
リリー 試写を見て、自分が大げさなことしてるんだなと気付きましたが、ああいうやり方でないと、言葉がお芝居にならなかった。スタジオのシーンは4日連続の撮影で、毎日の空気の重さといったら(笑)。本編は音楽でポップに盛り上げられてますが、現場はそんなに楽しいものではなかったんですよ。でも、客観的に見て、すごくかっこいい映画になったと思う。かっこいいという言葉は軽くてあまり好きじゃないけど、ほかに言いようがない。
吉田 牛はCMの撮影で何回か使ったことがあるんですが……動かないんです(笑)。だから、牛に乗るという演出は最初はあきらめていました。
リリー 台本読んだときに、そうはいかないよ! って笑いましたもん。乗れましたけど、意外と歩くスピードが早かったです。牛に宇宙を感じてるのも、ピンクフロイドっぽい(笑)。
吉田 「原子心母」のようなホルスタインは見つかりませんでしたけど(笑)。
リリー 思っていたより、牛はしっかり芝居していましたよね。
吉田 今まで出会った牛の中で、最高の牛でした。
リリー 公開後忙しくなるでしょうね(笑)。
リリー こうやって、次の世代の人がリミックスしてくれるほうが、原作のまま映画化されるより作家としてはうれしいでしょうね。
リリー 映画という形じゃなくても、何か作りたいですね。二人でコンピレーションCD出したりね。
吉田 (笑)。同じものを好きだった人と、この歳で、このタイミングで、出会えた。何かに導かれたような気がします。ラッキーでした。
吉田 同じ星……九州ですけどね(笑)。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
【推しの子】 The Final Act NEW
【忖度なし本音レビュー】原作ガチファン&原作未見が観たら…想像以上の“観るべき良作”だった――!
提供:東映
物語が超・面白い! NEW
大物マフィアが左遷され、独自に犯罪組織を設立…どうなる!? 年末年始にオススメ“大絶品”
提供:Paramount+
外道の歌 NEW
強姦、児童虐待殺人、一家洗脳殺人…地上波では絶対に流せない“狂刺激作”【鑑賞は自己責任で】
提供:DMM TV
全「ロード・オブ・ザ・リング」ファン必見の超重要作 NEW
【伝説的一作】ファン大歓喜、大興奮、大満足――あれもこれも登場し、感動すら覚える極上体験
提供:ワーナー・ブラザース映画
ライオン・キング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
ハンパない中毒性の刺激作
【人生の楽しみが一個、増えた】ほかでは絶対に味わえない“尖った映画”…期間限定で公開中
提供:ローソンエンタテインメント
【衝撃】映画を500円で観る“裏ワザ”
【知って得する】「2000円は高い」というあなただけに…“超安くなる裏ワザ”こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。