目指したのは、大人も楽しめる国民的アニメ 「まけるな!! あくのぐんだん!」京極尚彦監督が語る
2017年5月18日 23:30
[映画.com ニュース] 放送中のテレビアニメ「まけるな!! あくのぐんだん!」は、「ラブライブ!」や「探偵オペラ ミルキィホームズ」に出演する声優の徳井青空が「月刊ブシロード」(ブシロードメディア刊行)で連載中の4コマ漫画を原作としたドタバタコメディだ。かわいらしい絵柄のキャラクターが縦横無尽に活躍する中で、玄田哲章演じる「あくのぐんだん」の首領・ドン様が時折見せる中年の悲哀がスパイスとなる、老若男女幅広い層が楽める作品として仕上がっている。今回は、原作者の徳井とは代表作「ラブライブ!」を通じて盟友の間柄でもある、京極尚彦監督が製作の舞台裏や、見どころを語った。
それまでは面識すらなかったという、製作総指揮・夏目公一郎から突然のオファーの電話を受けるや、自らタツノコプロに乗り込み、アニメーション制作の打診をしたという京極監督は「当初はフラッシュアニメでという話もありましたが、できることは最大限にやりたいと思い、かねてデジタル作画化に着手していたタツノコさんにお声がけさせていただきました。もし、低予算でフラッシュで、ということならばお引き受けしていなかったでしょう」と製作当初を振り返る。
京極監督は、今作の製作に際し「NHKで放送されているような国民的作品」を想定したという。シンプルなデザインのキャラクターが登場する作品だからこそ、背景美術の占める比重が大きくなると判断し、元スタジオジブリのメンバーが多数参加している「でほぎゃらりー」を起用したのも、子供だましではなく大人が見ても十二分に楽しめる作品にするためだ。そのほかにも今作には、同様のこだわりが随所にちりばめられている。「今作の『線』には、温かみのある風合いにするために、真っ黒ではなく、少し赤みを加えているんですが、その代わりに影を青っぽくしたりしています。補色の関係を意識したトリッキーな色合いにすることで、大人っぽい遊び心のあるカラーリングに仕上がったのではないかと思っています。劇伴も、藤澤慶昌さんにお願いしてJazzyな曲を用意し、ドン様の世代を意識した、ビターな要素を忍ばせました。大人の視聴者の方にも『オシャレでかわいい』と思っていただければ、とても嬉しいです」(京極監督)
一方で今作は、老舗アニメスタジオ・タツノコプロ初の「全編デジタル作画」によるテレビシリーズという、アニメーション業界におけるマイルストーン的な側面を持った作品でもある。作画に紙とペンを使わない、ペーパーレスのデジタル作画を活用するにあたり、京極監督は「紙でやっても同じだったのでは?」と言われないことを心がけたという。わけても「線」に対するこだわりは強く、今作では、横に引くと細い線が描けて、縦に引くと太い線が描けるという、油性サインペンのような風合いになるカスタムブラシが用意された。手描き作画で太い線を引く場合には、何度もなぞり返す必要があるが、デジタルツールを使えば、どんな線でも自由自在に描き出すことができる。「デジタルのほうが、アナログの温かみや迫力を表現しやすいという、不思議な逆転現象が起きていますね」(京極監督)
しかし、現時点ではデジタル化によるデメリットも少なからずあるという。特に、専用のソフトとそれを扱えるスキルを持つ人材が少なく、多くのアニメータが手になじんだ紙とペンというツールを手放そうとしないため、少数精鋭で臨まざるをえないことは大きな課題だ。京極監督は「デジタル作画は、数十年かけて先人が編み出してきた手描き作画のワークフローに比べると、まったくの手探り状態です。こればかりは、やり続けていくしかないんじゃないかと思っています」と苦笑いしながらも、「一度デジタル作画が確立されれば、劇的なスピードアップにつながり、表現の幅も格段に広がるはず。現時点でのデジタル作画は、複雑に入り組んだ道を、渋滞しながらも前に進んでいくような感触ですが、きちんと整備されれば高速道路になると信じています。各社が別々のソフトを使っていることが、デジタル化普及を阻害する一因なので、まずは業界基準のソフトが確立されることが必要ですね」と展望を語った。
最後に、京極監督は「今作の根底にあるのは、徳井さんが描く3人のキャラクターたちの関係性……『家族愛』だと思います。悪い人がひとりもいない作品なので、ほっこりしながら見ていただきたいです。そんな中に、社会人のみなさんなら誰しもが共感できるであろう、徳井さんのちょっとした悲哀を垣間見ていただけると、としてもうれしいですね(笑)。『あくのぐんだん』は、忙しい毎日を生きていく元気をくれる、ヒューマンドラマでもあると思います。難しいことを考えなくていい作品なので、気軽に楽しんでいただければ幸いです」と作品をアピールした。
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