「世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方」監督が描きたかったのは、子どもたちの個性のあり方
2017年2月10日 14:30
[映画.com ニュース] 長編監督デビュー作「ツバル TUVALU」などファンタジックな作風で知られるファイト・ヘルマー監督が来日。映画.comのインタビューに応じ、世界50以上の子ども映画祭を席巻した最新監督作「世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方」の舞台裏を明かした。
6人の幼稚園児と1匹のアカハナグマが、平和な村をおびやかす消費者調査会社に立ち向かう姿を描いた本作。ドイツの小村で風変わりな老人たちと楽しい日々を送っていた子どもたち。だが、消費者調査会社「銀色団」が村を訪れ、新商品のリサーチを行う“マーケット村”に定めたことから生活は一変。個性的な老人たちは、銀色団の言いなりになった大人たちによって老人ホームに強制入居させられ、子どもたちは遊び相手を失ってしまう。
本作は一見すれば子ども向けの作品に思えるが、実際には子どもたちの活躍だけでなく、孫、親、祖父母という3世代間の衝突や、均質化を目指す“企業”と個性を重んじる“個人”の対立など、社会的なテーマをも内包した多層的な内容となっている。「元々は、息子のために映画を作りたいと思ったんだ。息子に聞いたら、清掃車は絶対出てこないといけない、消防車、クレーン車、飛行機、機関車も、と言われた。その全部がしっちゃかめっちゃかに事故を起こすのが見たいとね」と製作の出発点を語るヘルマー監督は、見て楽しいスペクタクル要素を押さえつつも、親世代、ひいては祖父母世代も満足できる作品作りを目指した。
「子どもは自分たちだけでは映画を見に行けない。必ず親が付いていくよね。そういうときに両親は『君が行く?』『あなたが行きなさいよ』と押し付けあうものだ。というのは、子ども向けの映画は大人にとってはそんなに面白くないことが多いから。だからこそ、本作を撮り始める際には、子どもだけでなく一緒に見に来る親にも楽しんでもらえるように、と考えた。たとえば映画の最後の方のあるシーンなども、子どもはビジュアルとして面白いと思うが、親は内容を知的なレベルで理解してくれる。本作のパンフレットには『本作は4歳から144歳までの映画です』と書いてあるんだ」。よどみなく語るヘルマー監督からは、本作が全年齢に向けたものである、という自負が伝わってくる。
“個性のあり方”を問う主題においても、子どもの自由奔放さがユーモラスに描かれると同時に、大人の不自由さが浮き彫りになる構成になっている。だからこそ、ホームに収容された老人たちが個性にふたをされ、親たちは企業の口車に乗せられて価値観を統一されるという危機的状況を、子どもたちが文字通りぶっ壊していくさまは痛快だ。「子どもというのは、個性がある唯一の人間として生まれてくる。それがしつけや教育、学校などによって、少しずつ型にはめられていく。学校にまだ行っていない子どもたちやもう働くことを終えた老人たちが1番ハッピーな世代で、お金を稼いだり型にはまるといったことから解放されているんだ」。
子どもと老人。ヘルマー監督の言う“ハッピーな世代”が手を取り合って自由を勝ち取ろうとするストーリーには、監督の願いにも似た思いが反映されている。「日本でもそうだと思うけど、ドイツでは親世代はほとんどが共稼ぎで、祖父母は老人ホームに入っている。多くの子どもたちは、祖父母との接触があまりない。私にとってこの映画で非常に重要だったのは、子どもたちとお年寄りのつながりを表現すること。この2つの世代のつながりを描くために、間の世代である親たちはちょっと極端な形で表現した。そういう風に脚本を書いたら、(親を演じる)ドイツの俳優たちはバカを演じることを非常に喜んでくれたんだよ(笑)」。
インタビューの最中にも、小道具で使ったイチゴを勧めてきたり、消防車のミニチュアをいとおしげになでたりと、ヘルマー監督自身も型にはまらない人間性豊かな人物。「新しい映像言語を表現することが私の作風」と語り、「日本では独特な映画が受け入れられる素地があると思う。日本の皆さんはデザイン、ファッションスタイル、食べ物にしてもビジュアル的なものに価値を見いだす国民性があるから、私の映画を好意的に受け入れてくれるかもしれない」と期待に胸を膨らませた。
「世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方」は、2月11日から全国公開。
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