音楽家・半野喜弘、青木崇高&大野いとと語る初監督作への思い入れ
2016年11月18日 17:00
[映画.com ニュース] ホウ・シャオシェン、ジャ・ジャンクーら名匠の作品音楽を手がける音楽家・半野喜弘の初監督作「雨にゆれる女」が11月19日公開する。こだわり抜かれた映像と音楽で、孤独な男女の美しくも悲しい邂逅を描いた意欲作だ。主演の青木崇高、ヒロインの大野いとと共に、半野監督が作品を語った。
本名を隠し、別名を名乗ってひっそりと暮らす男と、突然男に預けられた謎の女。2人は本当の姿を明かさないまま、次第にひかれ合うが、運命の皮肉が待ち受ける。
登場人物たちの心情を表現するような、黒と原色を用いた独特の色彩や構図は、絵画を意識したと半野監督は明かす。「現実世界に色彩がたくさんあっても、焦点が定まっていないとその存在は意識されないもの。だから、ある程度限定して黒を使って色彩を配置すると、人間の五感がそれを感知できるという効果をうまく映画の中に取り入れたかったんです」
とりわけバロック期の宗教画家、カラバッジオの作品に影響を受けたそう。「彼の黒と色彩の配置は、闇の部分に何かが潜んでいるのではないかという、ある種の神話の中の悪魔性や、犯罪性を感じさせ、とても映画的な気がしていたんです。あとはセザンヌです。彼はピカソより前に、ある種のキュビズム的な試みをしていました。絵画はある瞬間を描くと言われていたけど、セザンヌがやりたかったことは、前後にある時間帯を一つの絵の中に置くということ。映画はカメラ位置を変えることでそれができる。僕は連鎖していく映像が絵画的になるだろうかどうかを意識しました」
「人が生きていくということの、不公平さということが、昔から心の中に引っ掛かっていた」映像や音使いなど、半野監督の美意識が張り巡らされた映画だが、作品の軸となるのは人間の貧困や孤独だ。
「僕は永山則夫の事件があった1968年に生まれたんです。彼は19歳で、連続射殺魔として捕まって、少年犯罪が議論されるきっかけになった。彼は、生い立ちが貧しく、家族からも見放されていた。だから二十歳までに死ぬためにああいう事件を起こしてしまったけれど、生い立ちが違ったら、殺していないはず。僕ももし生い立ちが違ったら……と、考えましたし、生きることは不公平だと感じました」
幼い頃に、貧しい地域に住む子供たちを見てきた経験も劇中に反映した。「真冬でも半袖の5歳くらいの兄とその妹がいて、公園で空き缶をひろって、缶のわずかな残りを飲んでるんです。それも、この子たちに罪はない。そういう子たちに、みんな人生頑張っていけと言うけれど、きっと僕たちが頑張った程度の頑張りでは、彼らは報われない。そういうことがずっともやもやとしていて。だから、この映画では人間の持っている逃れられない生の部分を軸にしたいと思ったんです」
青木はバックパッカーで海外を放浪していた20代の頃、パリにいた半野と出会った。本作の脚本を読み、プライベートから始まった親交だったからこその驚きがあったそう。「半野さん、こういうの書くんだって。しっとり女性との距離を大事にしたり、意外でした(笑)」
自分の正体を明かせない飯田健次という男を演じるために「(大野が演じる)理美が現れるまでの、時間をどう過ごしてきたのか、その土壌がすごく大切にしたかった」と考えて臨み、「セリフを言う時に先行するのはまず気持ちなんです。そして、相手を受け入れるときにも気持ちが体に共鳴するものだと思う。言葉にどれだけの情報が詰まっていて、相手にどれだけ、自分の話す情報をどこまで与えていくか。健次でいるときは常にそういうことを考えていました」と役柄に没頭した。
健次の生活にさざ波を立て、人生を変える女、理美を演じる大野は「現場は本当に、毎日が濃密で。リハーサルの時点で、カメラの位置がきちんと決まっていて、シーン自体に時間をかけてくださったので、いろいろ考える時間が持ててありがたかった」と撮影を振り返り、「理美を理解するのはとても大変でした。でも、この人はどういう風に生きてきたのかということを考えて、自分の気付かなかった面にも気付くことができた」と、難役が自身に与えた影響を語った。
「雨にゆれる女」は11月19日からテアトル新宿でレイトショー公開。
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