いちずな思いを貫いた、黒木瞳監督の軌跡
2016年6月26日 07:30
[映画.com ニュース] 黒木瞳が、映画監督に挑戦する。タイトルは「嫌な女」。それだけで注目するには十分だった。原作小説の映画化権取得から脚本、撮影、編集、そして音楽と余すところなく愛情を注いだこん身の一作。「監督をするのが目的ではなく、この作品が映画になって多くの方に喜んでいただきたい」という、いちずな思いを貫いた「瞳監督」の軌跡に迫った。
2011年、徹子と夏子という2人の女性の半生を描く桂望実さんの小説「嫌な女」との出合いが、後に運命を大きく変えることになった。
「徹子は人と関わる際に距離感があったり、トラウマを抱えていてどちらかといえば暗い女なんですけれど、夏子とは腐れ縁みたいに関わっていく。それで、人って年をとる、いつか死ぬという当たり前のことに納得させられて、本当にいろんなことがあるけれど、それも自分の人生として受け入れて生きていかなきゃいけないんだというところに感動しました」
早速、出版元と交渉し、桂さんには映像化のイメージを書面で伝えた結果、映画化権を取得。「映画 怪物くん」やアニメ「TIGER&BUNNY」シリーズなどで知られ、現在はNHK朝のテレビ小説「とと姉ちゃん」の脚本を手掛ける西田征史氏に依頼し、共同で脚本開発を進めていった。本業もこなしながら3年ほどが過ぎた頃、周囲から監督をやってみればという声に一念発起する。
「この作品って、私の思いが一番強いなというところにたどり着いたんですね。冗談じゃないって感じだったけれど、待てよ、私が一番知っているなと。それで、やって…みる?みたいな(笑)」
不安だらけでのスタートだったが、主演の2人にイメージしていた世代の吉田羊と木村佳乃をキャスティングできたことで大きく前進する。
「実績もなければ、自信もないわけでしょ。もしオファーが来ても、女優は二の足を踏むと思うんですよね。私なら面白いなって思うんですけれど。本当に面白がってくれる女優がいたらいいねえって感じだったんですけれど、羊ちゃんも佳乃ちゃんも本当にバッチグーなキャスティングになりました」
昨夏の撮影はかなりタイトなスケジュールで、新人監督にとっては試行錯誤の連続であったことは想像に難くない。
「未知の世界を1歩1歩踏みしめているような感じでしたけれど、私がそうだといけない。自信を持たなきゃって自分で叱咤激励していました」
クランクアップ後も編集、音楽と細部にいたるまでもこだわりを見せた。映画全体を俯瞰(ふかん)したことで、新たな感慨も生まれたという。
「監督はすべての人に愛情を注いでいるんだと、あらためて知りました。スタッフ全員の名前を覚えたのも初めての経験です。本当に1人欠けても成立しなかったと思うくらい、皆が一生懸命やっている姿は感動ものですよね。今までもスタッフには、女優として感謝はしていましたけれど、もう全然違う感謝でした」
超がつく堅物の弁護士・徹子と、詐欺師といわれるほど自由奔放な夏子を対比させ、徐々に本音をぶつけ合うことで、笑いとペーソスにあふれた女性讃歌となった「嫌な女」。特に同世代の女性から共感を得られているそうで、「女性が1歩前に踏み出すという思いが伝わればいいなというのが出発点」という信念がぶれなかった賜物(たまもの)だろう。