ジャ・ジャンクー監督が「山河ノスタルジア」に込めた、変わらぬ思い
2016年4月17日 08:00
[映画.com ニュース]「長江哀歌」で第63回ベネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)、「罪の手ざわり」で第66回カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞した中国のジャ・ジャンクー監督最新作「山河ノスタルジア」が、4月23日から公開される。中国の経済発展に変化が見えはじめたこのタイミングで本作を撮った理由などについて、その思いを語った。
作品は、時代に翻弄(ほんろう)され、離ればなれになった母と息子の強い愛を、1999年から2025年まで過去・現在・未来と3つの時代を通して描く壮大な叙事詩。これまで現代中国の急速な社会的・経済的変化の中の空気感を捉えた作品を撮りあげてきたジャ監督だが、「今の中国社会で生きていればこの急激な変化を感じない人はいないし、それを分からないわけがない。映画の中でそんな生活を描くとすれば、その社会の急激な変化、その気配や影響を撮るのは避けられないものだと思う」と答えた。
ジャ監督作品のミューズであり、私生活の伴侶でもあるチャオ・タオは、本作でも確かな存在感で別れた息子を想いひとり故郷に暮らす母親を演じている。新作の脚本を執筆する時は常に夫人がイマジネーションを刺激してくれる存在なのだろうか。「あて書きすることはありません。僕の作品に出てくる女性はごく普通に中国で生きている一般の人が多く、彼女はそういう人たちに対して非常に理解を持っている。だからコンスタントに一緒に仕事が出来たのだと思う」と明かす。
また監督の故郷・山西省の汾陽(フェンヤン)が今回も物語の舞台となっている。「僕にとっては非常に、映画の中の虚構の町であり、この名前の持つ普遍性、北京でも上海でもない、中国の大多数の人が生きる町としての意味を持っている」という。美しい映像と共に、作品の中には記憶としての多くの「記号」がちりばめられているが、「自分の忘れ難かった『記憶』が残っているのだと思う。僕が暮らしてきた生活の中で見てきたもので、懐かしい忘れられないもの。それが映画の中では、人の暮らしの雰囲気や『想い』なのではないか」と述懐する。
今回は、ペット・ショップ・ボーイズの「GO WEST」や台湾生まれの歌手で女優のサリー・イップの「珍重」など、90年代当時の流行歌が効果的に使われていることについては、「『GO WEST』は最初から決めていた。当時の若者の一番の娯楽、流行はディスコでこの曲が流れていた。あの時期は経済改革が一回あって、もう一回波が来て急速に上がっていき、経済が開放されるという豊かな希望に満ちた時代だった」とし、「『珍重』は別れを惜しむ曲で、この作品には沢山の別れが表現されているので使用した」という。
そして本作では「徐々に中国人としてのアイデンティティが失われつつあることを表現したかった。長い幅の時間の中で、老いても同じ人間でありながらいかに人が変わるのか、それは社会からの変化かもしれないし、時間が経ったことからくることかも知れない」と語り、ドキュメンタリー作品を定期的に撮っていることも「知らないことを知っていく過程が楽しく、映画を撮るための活力を養ってくれる」と述べた。
先に公開された中国で自身の作品としては最大のヒットとなった要因については、「20カ所くらい中国各地を回って、いろいろな観客に挨拶し、この映画の存在を知ってもらう努力を今回はしました。また、中国の観客も少しずつ変わり始めていて、今の若い人はアート映画でも予告編を見て面白そうと思えば見に行くようになり、娯楽映画と区別しなくなったからではないか」と説明。
本作では、3つの時代でスクリーンサイズを変えるという画期的な試みにも挑んでおり、毎回作品を撮る際に映画的な新しい表現に挑戦しているように見える。「特別な意識はしていませんが、技術的な革新に合わせて挑戦していこうとは考えている」としており、そういった監督の姿勢が中国の若者にも訴求したのかもしれない。日本の若い観客が本作を見てどのような反応を示すのか、強い関心を示していた。
本作にはチャオ・タオのほか、リャン・ジンドン、チャン・イー、シルヴィア・チャンら実力派俳優たちが共演。さらに、タオの息子を演じたドン・ズージェンは、父親が俳優、母親が敏腕マネージャーであり、自身もプロデューサーとして活躍するアジア・エンタメ界で注目の若手俳優だ。
なお、ジャ監督の7作品、「一瞬の夢」「プラットホーム」「青の稲妻」「世界」「長江哀歌」「四川のうた」「罪の手ざわり」が公開に合わせて一挙配信される。3月からAmazonプライム・ビデオ、ひかりTVで配信中。4月からはGYAO!ストア、GEO Online、DMM.com、VIDEX、bonoboほかで順次配信開始予定。
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