塚本晋也&想田和弘、「野火」通じて紐解く東日本大震災後や戦後70年経た今の思い
2016年2月17日 17:00
[映画.com ニュース] 塚本晋也監督が2月17日、東京・渋谷のユーロスペースで「野火」の凱旋上映を行い、映画監督でジャーナリストの想田和弘とトークを繰り広げた。1997年の第54回ベネチア国際映画祭に短編「ザ・フリッカー」を出品した想田監督は、審査員を務めていた塚本監督と現地で会っていたそうで、約19年ぶりの再会に感激しきり。2度目の「野火」鑑賞を経て、塚本監督の映画作りの姿勢や作品に込めた思いなどを掘り下げた。
演出方法を問われた塚本監督は、フィルムとビデオの違いに触れ「(昔は)フィルム代が高くもったいないので、助監督さんに俳優さんと演技をしてもらいながらかなりのところまで決めていた。ビデオになってからは、いろいろ決まっていない段階で回してもらうのもいいかもしれないと。名前を出すのもおこがましいけれど、クリント・イーストウッドさんは、今撮っているのか分からないような撮り方で回して、ほぼワンカット目を使うらしい」と説明。主人公・田村一等兵を演じる際、上半身を撮影するシーンでは「(映らないよう下ろした手で)モニター持ちっぱなし」で映像確認も行っていることを明かし、想田監督を驚かせていた。
想田監督は「映画というものは疑似体験の装置で、その場に放り込まれた感覚を与えてくれる。フィクションであれドキュメンタリーであれ、そういう感覚を呼び起こすには描写力が一番問われるのでは」と持論を展開。「見せない演出と見せる演出のメリハリが効いている」と容赦のなさや光で表現した敵など戦闘シーンに切り込むと、塚本監督は「セールスの人にあのシーンがある限り売れないと言われた」と明かしながらも、「田村一等兵の主観の描写にすることで、お客さんが田村と一緒に戦争している感じにしたかった。潤沢な予算がある大きな規模だったとしても、アメリカ兵を映さない感じにしたかった。敵がアメリカの若い兵隊さんではなく(戦争を)決めた上の方から弾が降ってくる感じがあった」と強い思いを語った。
「野火」が封切られた2015年は、戦後70年の節目の年だった。想田監督は「戦争を体験した人が減るにつれて、フィクションが戦争を描くときにリアリティの薄いもっと格好いいもののように描くものが目立つと思う」と指摘。塚本監督も「それがなんとも言えず嫌だった。不安と恐怖さえも覚えた」と振り返り、「(東日本大)震災までは『野火』が作れなくても『もっと立派な監督になってからでいいや』とぼーっとしてしまっていた。でも、あの震災があったあたりから先延ばしできないと思った」と映画化に踏み切った決め手として、11年に発生した東日本大震災を挙げた。
一方の想田監督は、震災発生時に米ニューヨークから惨状を見ており、Twitterで警鐘を鳴らしてきたひとり。「好き勝手言っているだけ」と笑いながらも、「人が住めない日本を想像して、そのイメージが頭にこびりついてしまった。大変な事態になっているにもかかわらず、『直ちに影響はない』とか、メルトダウンという言葉が日本のメディアで使われていなかった。(事の深刻さに)英語の文献やニュースを調べていってはじまった。元々は映画を作っているので、僕の政治的意見に反対の人にも見てもらいたいからあまりそういう話はしたくなかったけれど」と吐露した。
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