小栗康平監督が会田誠、椹木野衣と藤田嗣治のパリ時代&戦争画を語る
2015年11月13日 16:00
[映画.com ニュース] 画家・藤田嗣治の半生を描いた映画「FOUJITA」の公開と書籍「戦争画とニッポン」刊行を記念し、小栗康平監督、美術家の会田誠氏、美術批評家の椹木野衣氏によるトークイベントが11月12日、都内で開催された。
映画は小栗監督10年ぶりの新作で、オダギリジョーを主演に1920年代単身フランスへ渡り、フランスと日本、そして戦争という時代に生きた画家フジタの半生を描く。「戦争画とニッポン」は戦後70年にちなみ、日本絵画史から抜け落ちた「戦争画」についての会田氏と椹木氏による対談集。この日は3人によって「日本の近代の受容」を軸に、フジタの画家としての戦略と生きた時代、アート界と映画界のグローバリゼーションについてなどさまざまな話が繰り広げられた。
1920年代のパリで、フジタは乳白色の裸婦画で一躍人気画家になるが、第2次世界大戦を機に日本に戻りその後数多くの戦争協力画を描く。パリ時代のフジタは、面相筆を用いた繊細な画法で高い評価を受けた。小栗監督は「フジタはヨーロッパ社会で受け入れられる日本人画家としてできることは何かということに非常に戦略的だった」と分析。エコール・ド・パリの寵児となり、もてはやされたフジタであるが「我々は戦争画を抜いてフジタを語ることはあり得ないが、日仏合作のこの作品のプロデューサーもフジタの戦争画を知らなかった。ヨーロッパではフジタが戦争画を描いていたことはほとんど知られていない」と現在のフジタへの認識について話した。
学生時代からフジタに興味を持ちはじめたという会田氏は、乳白色の裸婦画から影響を受けた自身の作品として「犬(雪月花のうち“月”)」「MONUMENT FOR NOTHING」「大山椒魚」などを挙げ、「欧米では肉体はボリューム感を付けて描くが、淡いウスバカゲロウのような存在として女性の裸を描きたいという感性」だと話す。また、「戦争画RETURNS」シリーズ制作にあたり、資料として数々の戦争画を調査した際を振り返り「フジタの玉砕図がぶっ飛んでいた」とフジタの戦争画の代表作「アッツ島玉砕」から着想を得た作品を紹介した。
フジタが目指したのは「日本画と洋画の統合」だと話す椹木氏。フジタの当時の日本の画壇での立ち位置、モディリアーニら同時代に生きた画家との現在の評価の違い、ベルナール・ビュフェらフジタから影響を受けた画家などについても言及した。小栗監督が映画で描いたパリ時代について歴史背景を説明し「フジタとフジタを取り囲む時代、恐慌が近づき、生きていくことへの不安感や華やかだけれども何にも支えられていない、この時代がいつまでも続くのではないという雰囲気が映画から非常によく感じられた」と評した。
現在、東京国立近代美術館で「藤田嗣治、全所蔵作品展示。」が開催中だが、戦争画鑑賞のアドバイスを求められた椹木氏は「アッツ島玉砕」に触れ、「玉砕というとサイパンなど南の島と連想しがちですが、この絵はアリューシャン列島のはずれの北の海。背景の岩山には雪が残っている。フジタは意識的に兵士と兵士の隙間にアッツにしか咲かない花を描いている。それが一番描きたかったものではないかと思う。画集だとなかなか見つからないので、アッツ島の花を見てほしい。また、フジタは日付を皇紀から西暦に直している。この絵を世界に出したいという意識があったのでは」と語った。
「FOUJITA」は11月14日から角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国で公開。「戦争画とニッポン」(講談社刊)は発売中。
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