日本代表“リベロ”佐藤浩市が見守った、本田翼の成長
2015年11月8日 10:30
[映画.com ニュース] 日本を代表するリベロがいれば、心強いことこの上ない。「起終点駅 ターミナル」においてそのポジションを担ったのが佐藤浩市だ。本田翼からのパスをことごとく受け止め、時には指令塔となって若手女優の成長を見守った。2人で築いたホットラインがつむぎ出す、諦観から再生に向かう男女の営み。決して平たんな道ではないだろうが、必ず光が差すと感じさせる説得力をもって迫ってきた。
家族を捨ててまで愛そうとした女性・結城冴子を目の前で失い、それを罪として背負い北の果てに逃れた弁護士・鷲田完治。世間との関わりを拒絶するように生きていたが、担当した覚せい剤事件の被告・椎名敦子の存在が心中に波風を立てていく。直木賞作家・桜木紫乃さんの同名短編の映画化。佐藤の完治に対する理解、アプローチが興味深い。
「台本を読んで、一緒に生きていくために冴子に会いに行ったのではないんじゃないか。もしかしたら逆だったのに、彼女の顔を見ると言い出せず自分の思いだけ先行した言葉を放っちゃったんじゃないか。だから彼女は死んだんじゃないかと考えると、この役が腑(ふ)に落ちたんですね」
一方の敦子も、10代で家を出て人には言えないような苦労もしてどこか人生を投げ出しているような女性。原作より実年齢に近く設定されているとはいえ、明るい役のイメージが強い本田にとっては相当の覚悟を持って臨んだはずだ。
「敦子のようなタイプの女の子をやってみたいという探求心というか、新しいものに挑戦したかったんです。お相手が佐藤浩市さんで、日本を代表するような俳優さんと二人芝居ができる機会なんて滅多にないですし、今後いつそういうチャンスがくるか分からないですから」
稽古はしたものの、ほとんどは現場で芝居を重ねる“実戦形式”で2人の関係性を積み上げていったという。これには佐藤の長年培ってきた受けの芝居、懐の深さによるところが大きい。
「僕は日本を代表するリベロですからね。全部拾いますから。同世代の人間と一緒にやる時は、相手がどうくるかなあと考えて、あっ、そっちできたか。じゃあ僕はこう出るかという駆け引きのようなことをする時もあるけれど、若い人が何をやってくるかは読まないです。逆に考えてもしようがないので、好きにやってくれ。全部受けるからって」
これは本田も感じていたようで、我が意を得たりと表情がほころぶ。
「監督に何か言われて、それを理解できないのが一番イヤなんですよ。でも、それってどういうことなんだろうという瞬間があって、浩市さんの前でやってみないと分からないってことになってしまうこともありました。本当にお付き合いしていただいて、そういう中で自分がどんなことをしても受け止めてくれているという安心感はありましたね。それが今、確信に変わりました」
クライマックスで裁判の証言台に敦子の決意に満ちた表情はりりしく、頼もしくさえ映る。完治も、自らに課した罰から一歩踏み出そうとする。その喜びをかみしめるような穏やかな笑顔が印象に残る。
「今後の自分の見方を変えてくれる作品になりました。女優として新しい道を開いてくれたので、本当に感謝しています。女優としてまた頑張ろうと思えたのが大きいですね」
どん欲になった本田に、佐藤も期待を込めて「そうなってもらわなきゃ、こっちも困るでしょ」とさらに叱咤する。佐藤の薫陶を糧にした本田が、いかなる変化を遂げていくのか、楽しみになってきた。
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