北野武がタップの師匠、HIDEBOHのために温めていた企画が舞台に登場!
2015年11月7日 08:45
[映画.com ニュース]北野武監督の「座頭市」といえば、なんといっても圧巻だったのが終盤の農民たちによる下駄タップ群舞。これを振り付けし、踊り手としても見事な下駄さばきを見せていたのがタップダンサーのHIDEBOHだ。「座頭市」でのコラボから12年。北野とHIDEBOHが再び手を組んで作り上げられた舞台「海に響く軍靴」が幕を開ける。
これはもともと北野が「HIDEBOHありき」で、「座頭市」よりも前に映画の企画として発案したものだった。HIDEBOHが北野から聞いたのは、北野にタップのレッスンをするようになってしばらく経ったころだという。
「あるとき、武さんが『今度、タップの映画でやりたいと思っている話があるんだよ』とおっしゃったんです。『ラストシーンは決まってるんだ、最後、カメラがパンして空を映すとそこにタップの音が流れてさ』と。僕は武さんの映画で言うと『HANABI』みたいな感じかなとイメージしたんですけど。『わあー本当ですか、そんな映画なら早く撮ってほしいな』って言ったら『HIDEBOHが主役だよ』って。うれしかったですね」
さらに10数年の後、HIDEBOHが博品館劇場で「タップ・ジゴロ」というミュージカルの再演に主演していたときのこと。フラッと見に来た北野がHIDEBOHに「こういう舞台、いいよな。前に言ってたタップ映画の企画、舞台でやるのもありだなと思うんだけど、とりあえず舞台でやるか?」と言ったことから企画が再び動きだした。物語は戦時中、南太平洋の孤島に漂着した日本兵とアメリカ兵が、タップを通して友情を育むというもの。
この作品の根底には北野武とHIDEBOHという2人の友情と敬意が流れているわけだが、実はもう1つ、友情のドラマが隠されている。それがHIDEBOHとは25年ほど前にニューヨークで出会ったというブロードウェイのタップダンサー、Tamangoとの物語だ。今度はTamangoに語ってもらおう。
Tamangoから見たタップダンサーとしてのHIDEBOHは「彼自身のサウンドを持った本物」だという。
舞台ではTamango扮するビルが、HIDEBOH演じる森山をブロードウェイに紹介するという場面がある。HIDEBOHによれば、Tamangoとの関係が作品の中で逆転し「パラドックス的なもの」が生まれているのだという。
「昔、僕をニューヨークの舞台に上げてくれたのがTamangoだったんです。世話になったけど、厳しいことも言われましたよ。『モノマネロボットでしかないなら帰った方がいい』とか。『日本のよさを早く見せてくれよ。なんで肌を黒く焼いて髪をドレッドにしてるんだ、黒人でもないのに意味わかんないな』とかケチョンケチョン (笑)。友達だから言ってくれたんですよね。そのころの僕のルックスはまるで黒人。でも、猿まねしててもダメだって気づいたんです。親父とお袋もエンタテインメントっていうのはアイデアだということをずっと言っていた世代なので、日本に帰ってからは和太鼓とコラボだとか、灯油の缶を叩いてタップとやってみようとか。そういうチャレンジをいろいろしていくなかで武さんが見に来てくれて、『面白いことやってんな』って言ってくださった。跳躍力もリズム感も勝る黒人に日本人が勝つにはどうしたらいいんだって考えて、『ちょっと待てよ、“間”っていうのがあんまり黒人にはないな』とか。日本人気質である自分の得意技を生かして戦ったらオリジナルスタイルになるんじゃないかと。そう考えたことがいまにつながっているんだと思います」
Tamangoとのエモーショナルな化学反応が、舞台にどう反映されるのかは大きな見もの。また、映画用だったシノプシスが舞台となって、タップの魅力をライブで存分に味わわせてくれるのも楽しみだ。これが成功すれば、今度はオフ・ブロードウェイ公演や映画化にもつながるかもしれない。(若林ゆり)
「海に響く軍靴」は10月30~11月15日、銀座・博品館劇場で上演される。