「ルクリ」監督&キャスト陣が説く企画意図から解釈まで
2015年11月6日 14:35

[映画.com ニュース]第28回東京国際映画祭コンペティション部門の作品の中で、もっとも難解と言われた「ルクリ」。何者かによる攻撃を受けて迎えた終末世界を舞台に、ある姉弟と数人の密室劇を描いたサスペンスフルな人間ドラマだ。上映時にもさまざまな解釈が議論されたが、この企画の意図から解釈など、ベイコ・オウンプー監督、プロデューサーのティーナ・サビ、主演のユハン・ウルフサクとミルテル・ポフラに話を聞いた。
本作の企画から撮影までどれくらい時間がかかり、どのような苦労があったか教えてください。
ベイコ・オウンプー監督(以下、オウンプー監督):企画立案から撮影終了までは、約1年でした。アイデアの立案から撮影開始までは、1カ月かかっています。実は本作は、映画製作についての実験だったのです。製作費をできるだけ抑えなければならないこともあり、クラウドファンディングなども利用し、最低限の予算で撮っています。
ティーナ・サビ:クラウドファンディングは2カ月の設定でしたが、ファンドの成功を待たずに撮影は開始しましたので、限りある予算ゆえの難しさはありました。
原資がないとできない話ですね(笑)
オウンプー監督:食費くらいはあったかな(笑)。最初の段階では脚本はありませんでしたが、「このような企画なんだけど、やってみる?」という話から作り始めました。製作に関わったキャスト6人、スタッフ7人の13人全員が出資者なので、誰もギャラはもらっていません。これは僕の経験上ですが、最初の企画やアイデアがしっかりとしたものであれば、その後は自ずとすべてうまく転がっていくものだと思います。この作品について、ひとつこだわりを申し上げるなら、本作は従来の映画に対するひとつの実験だということです。映画は3部構成が一般的です。まずキャラクターの紹介や状況に対する説明が行われ、次に何らかの争いや問題が起こり、最後は解決に向かいます。この構成ですと、エンディングを観る以前から簡単に予測がついてしまうから非常につまらないと思っています。本作は、そのためのひとつの試みだったのです。確かに迷う人もいるかもしれませんが、この物語に乗ってくれれば、別の映画体験になるでしょう。
この舞台設定がもっともわかりやすい部分だと思います。そもそもこの状況は戦争だったのでしょうか? それとも何らかの天罰が下り、皆いなくなってしまったのでしょうか?
オウンプー監督:これは戦争であるとか、追放であるとかといった具体的な説明は避けていて、もう少し抽象的な物語なんです。ある家を舞台にした4人のキャラクターによるひとつの密室劇で、外部から何だかよくわからない脅威が迫ってくる。その脅威によって4人の関係はより緊張に満ちたものになっていきます。ここで、なんだかよくわからない外部の脅威は、物語を成立させるためのひとつのツールとして機能しています。もう少し説明すると、では「映画とは何か」という問いに立ち返るわけですが、私にとって映画には、物語を語るという側面があると思います。そして、これは本作で私が最も探りたかった主軸となるテーマですが、どのようにして映画や物語は生み出されるのかというテーマがあります。本作はどう編集するか、どう構成するか、フレーミングをどうするかといったこと、つまり映画はどのように作られるのかを探る実験なんです。

脅威のモデルはあったんでしょうか?
オウンプー監督:ロシアのウクライナ侵攻がありましたよね。あのとき、もしかしたら我々も影響を受けるかもしれないと、戦争が非常に身近なものになっていく感覚を覚えました。その時の脅威が、一種この企画のモチーフにはなっています。しかし、あくまでもやりたかったのは実験。戦争という状態の最中で、人間がどうあるかを問いかけたんです。その答えは出ないのですが。
演じる側はわからないことだらけだったのでは?
ミルテル・ポフラ(以下、ポフラ):以前から監督を信頼していたので、オファーが来たときすぐにやろうと決断しました。スタッフたちも前々から知っていましたし、友人のようにコミュニケーションを取り合う旧知の仲でした。
ユハン・ウルフサク(以下、ウルフサク):私も同じです。2度観るとより良いという声が多いです。私が演じたヤンというキャラクター自体、割と私に似ているところがあると思いましたし、概念として、私にとってはわかりやすいキャラクターでした。そういう意味で難しさはありませんでしたが、ヤンが身体に浸み込むまでがなかなかうまくはいきませんでした。そうなると、「自分は芝居をしているな」という状態になります。そうすると納得できません。
ポフラ:難しい部分でもありましたが、設定があまりクリアではない分、各々が自由に想像力を働かせながら役に当たることができるという面白さがありましたね。
では最後に、監督にとって普遍的にある「脅威」とはなんでしょう?
オウンプー監督:潜在意識。無意識です。無意識というのはイメージや映像を通してアクセスできるものではありますが、ユングは自分の無意識と対話することが可能だといいました。ただそれができなくなると一方通行になります。今、世の中で戦争が起きているのは自らの無意識に対する認識が不足するゆえに、無意識にコントロールされていることをわからないまま攻撃に走ってしまう人がいるからじゃないかと思うんです。(取材/構成 よしひろまさみち 日本映画ペンクラブ)
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