塚本晋也監督、「野火」製作意図を今一度訴える「戦争の加害者としての歴史をなかったことにはさせない」
2015年10月28日 12:50
本作は、大岡昇平氏の同名小説を塚本監督が自主製作で映画化。第2次世界対戦末期、フィリピン・レイテ島にとり残された日本兵の壮絶な逃避行を描く。
塚本監督は、製作から配給まで「苦労していないところがない」と述懐。さらに「30歳を過ぎたくらいから本格的に準備を始めたが、金銭的な理由でなかなか実現しなかった」と語る。厳しい状況下で自主製作に至った理由を「徐々に時代の風潮がこういう映画を作るのは不謹慎だという雰囲気になっていったことに危機感と焦りが生まれた」「お金が出るのを待っていてはだめだ。これ以上延ばすともっと作り辛くなる。見る人もいなくなるかもしれないと思った」と厳しい眼差(まなざ)しで当時を振り返り、「あえてそういった風潮にぶちあてたかった」と説明した。
今の日本を象徴する映画として選ばれた本作。2015年は戦後70年という節目の年であることに加え、9月には安全保障関連法が成立するなど、国民ひとりひとりに今一度戦争の意味を問う局面が多かった。塚本監督は「戦争の加害者としての歴史を語る人がいない」と訴える。「本作を作るに際しても、10年ほど前にインタビューをした時も、相手の方から概ね何があったかは分かるぎりぎりのところまでは話を聞けたが、(人肉を食べたとは)決して言わなかった」と告白。さらに、戦争体験者の多くは「それは話すことではないと口を閉ざし、閉ざしたまま亡くなってしまう。結果、あれだけ恐ろしい出来事があったのに、まるでないこととして葬り去られようとしている。それをいいことに、今戦争の動きの方に、日本がぐぐぐと浮上しているように思えてならない」と切々と語った。
そのうえで、「戦争の加害者としての歴史をなかったことにはさせない」と強い口調で訴えると、客席に向き直り「閉ざした口を無理やり開けることはできないから、自分たちのような者が、ひとつの真実として『(加害者としての歴史は)あった』と語るために作った。終戦記念日ごとにしつこく『そういう歴史はあった』と言っていきます」と語りかけた。
第28回東京国際映画祭は、31日まで開催。