「光のノスタルジア」チリのドキュメンタリー作家に、巨匠F・ワイズマンが聞く
2015年10月8日 14:30
[映画.com ニュース] チリを代表するドキュメンタリー作家パトリシオ・グスマン監督による2部作「光のノスタルジア」「真珠のボタン」が、10月10日から公開される。「パリ・オペラ座のすべて」などで知られる、ドキュメンタリー界の巨匠フレデリック・ワイズマンが、グスマン監督に行ったインタビューを映画.comが入手した。
2011年山形国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀作品賞を受賞した本作は、世界中から天文学者が集まるチリのアタカマ砂漠と、そこにとどめられたさまざまな「記憶」に焦点を当て、チリがたどってきた苦難の歴史を大自然の圧倒的な映像美で映し出す。
ワイズマン:砂漠と砂漠で遺骨を探す女性たちと、空を探索している天文学者たちには、なにかを強く想起させられます。「光のノスタルジア」で一番興味を引かれたのは、考古学ですかそれとも天文学ですか?
グスマン:一番興味を引かれたのはメタファーだ。砂漠はメタファーに満ちている。この映画の中の天文学者と、女性たちの関係のように。メタファーは地理的な対称性から浮かび上がってくるものではないかと思う。僕はチリのあの一帯が大好きだ。アジェンデ時代の頃にはよく行っていたけど、以後、行っていなかった。でも、あの土地のことと、特異な対比は鮮烈に記憶に残っていた。近代の採掘場がある一方で、19世紀の採掘場も機械ごとその場に打ち捨てられている。
アジェンデの頃には1924年仕様の蒸気機関車を持ち込んでいたんだ。彼らは部品のスペアを作って、修理しながら使っていた。でも一番驚かされたのはミイラだった。突然、前世紀に引き戻されるような人類の産業のかけらに出くわす一方で、同じく突然、クリストファー・コロンブスの時代まで遡るような古いミイラに出会うんだ。古い機械はわれわれを産業革命の時代に連れ戻すが、ミイラはそれよりもさらに遠い過去に連れてゆく。そして望遠鏡はそれよりもさらにはるか遠く、何万光年といった彼方に連れていってくれるんだ! 結果として、僕はこの映画を満たしているメタファーは、僕が砂漠に着く前からそこにあったんだと思っている。そこにすでにあったメタファーを僕がフィルムに収めたに過ぎない。
ワイズマン:考古学の領域にも切り込みましたね。
グスマン:僕の最初のガールフレンドは考古学者だった。彼女はこの映画にも出てくるクジラの骨が展示されている自然史博物館で学んでいた。砂漠で集めた化石や石をどう分類するのかを僕に教えてくれた。この映画のロケ地の付近でも、彼女は発掘をしたこともある。彼女が、当時チリの民俗学界と考古学界で活躍していた、ベルギー人牧師ギュスタブ・ル・ペイジの下で働いていた時に、ミイラを見つけた話を聞いたときは、とても引きつけられた。この映画を撮ったのも、おそらくそういった記憶が自分の中に息づいていたからだろう。まるで若い時の一番輝かしかった頃に戻っていくかのようだった。
4年もの間、僕はこの映画の実現と格闘した。くじけそうにもなったが、主題の強さのおかげで最後までやり通せた。このプロジェクトは色んな糸が絡み合って、いくつもの疑問となって頭の中でこだました。この映画にはたくさんの解釈がある。
説明ではなく問いかけにしたいんだ。実際、僕はいつも自問している。そしてこの映画で扉を開きたかった。科学者たちが生命の起源を自らに問うようにね。それよりも確信しているのは、科学は未来のドキュメンタリー映画にとって、信じられないほどのテーマを提供してくれるということだ。
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