是枝裕和監督が説き明かす、「海街」シスターズの清らかな心根
2015年7月4日 12:30
[映画.com ニュース] 吉田秋生氏の人気少女漫画を是枝裕和監督のメガホンで映画化した「海街diary」が、6月13日に全国323スクリーンで公開された。第68回カンヌ映画祭コンペティション部門に選出された今作で、主人公の4姉妹を演じたのが綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず。華やかなキャスティングが実現した今作にあって、メガホンをとった是枝監督が四季をたどって撮影した現場の様子を振り返った。
今作は、祖母の残した鎌倉の家で暮らす3姉妹が、山形で別の家庭を築いていた父の葬儀で出会った異母妹のすずを引き取り、本当の意味で姉妹に、家族になっていく姿を描いている。本編で、樹木希林扮する3姉妹の大叔母が「あの子は、妹は妹でも、この家の家庭を壊した人の娘なのよ」というセリフがあるが、是枝監督も真夏の撮影現場で「少し強い言い方になってしまうが、被害者側の人間と加害者側の人間が一緒に暮らすなかで、込み入った事情を越えてどうやって姉妹になっていくのかがポイントだと思っている。特に、長女の幸と四女のすずがどう成長していくのかにひかれた」と語っている。
広瀬演じる浅野すずは、「自分は産まれてきて良かったんだろうか、ここは自分の居場所ではないんじゃないかという気持ちを抱きながら15年間生きてきたはず」という背景を持つ難しい役どころ。しかし広瀬は、経験豊富な先輩女優たちと対峙しても堂々たる振舞いで演じきった。是枝監督は、広瀬と初めて対面した日のことを「制服でオーディションを受けに来たんですよ。紺のブレザーだったのですが、サイズがちょっと大きくてね。猫背だったし。いま、田舎から出てきましたっていう印象を覚えました。ただ、すぐにこの子はそういう感じが消えるだろうなとは思いました。受け答えはしっかりしていて頭もいいし、かわいかったですから」と述懐した。
昨夏、撮影現場を取材した筆者は、早朝の江ノ島電鉄・極楽寺駅で、オーバーオールにリュックを背負い、ひとりで改札口を通過し極楽寺境内へ向かう広瀬とすれ違っている。その時点で、既に作品の世界を生きる浅野すずが醸し出す空気をまとっていたことを伝えると、「オーディションで姉に梅酒を入れる、『甘め? 酸っぱめ?』と聞くくだりの芝居をしてもらったのですが、『ああ、もうこの子だな。すずが現れた』と感じましたね。あとは風太や美帆ちゃんを誰に演じてもらって、すずと組み合わせるかという作業だけでした」と同調する。
4姉妹に扮した女優陣にインタビューした際、「本当に穏やかな現場だった」と口をそろえていたが、是枝監督は「役者がいいと、監督は楽ですよ。4人が本当に良かった」と謙そんする。それでも、「あの現場はね、綾瀬さんの人柄ですよ。彼女がいかにいろんな人たちから愛されているかというのを、目の当たりにしました。お芝居も素晴らしかったけれど、とにかくみんなが綾瀬さんのことが大好きなんだよね」と、凛とした佇まいで作品を牽引した綾瀬を称賛する。
「風吹ジュンさんが現場にいらした時も、『はるかちゃん!』と言って、撮影していない間はずっと綾瀬さんの手を握っているんですよ。親戚のおばちゃんみたいに(笑)。『この世界でこんなにいい子はいない』と言って、姪(めい)っ子を人にすすめる感じでしたね。あんな風に、他の女優さんから思われることってそんなにないんじゃないかなあ。堤真一さんもそうですし、他の役者さんたちも、綾瀬さんに会うのを楽しみに現場に来ていたんですよね」
綾瀬とともに長澤、夏帆、広瀬の4人は現場でも行動をともにし、本物の姉妹と見紛うほどに自然体で過ごしていた。その姿は、是枝監督をはじめ撮影監督の瀧本幹也、全スタッフが余すことなくすくい取り、スクリーンに焼き付けている。
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