テリー・ギリアム、情報化社会に生きる若者にメッセージ「自分なりの世界の見方を見つけること」
2015年5月15日 12:25
[映画.com ニュース] テリー・ギリアム監督の新作「ゼロの未来」が公開される。クリストフ・ワルツを主演に迎え、“人生の意味”を教えてくれる電話を待ちながら、謎の数式の解読に挑む孤独な中年プログラマーが、2人の若者との出会いにより人生が一変していく様を描いた近未来SFだ。傑作「未来世紀ブラジル」から約30年、ビビッドな映像とエモーショナルな物語を通して新たなる豊穣な想像力を見せつけた鬼才は、インターネットの普及により、あらゆる情報が入手でき、誰もがつながる社会だからこそ「自分で思考し、自分なりの世界の見方を見つけること」が重要だと語る。
コンピューターに支配された近未来が舞台。天才プログラマーのコーエンの仕事は、「ゼロの定理」という謎めいた数式を解くこと。経営者に監視されながら、自宅にひとりこもって定理の解明を続ける。ある日パーティに招かれたコーエンは、魅力的な若い女性ベインスリーと出会い、恋に落ちる。また、経営者の息子で、自分と同じく天才と呼ばれる青年ボブとの交流を通じて、コーエンは人生の意味を見出していく。
コーエンはゴシックな廃教会で修行僧のように暮らしているが、一歩外に出ると、おびただしい数の広告など「現代社会のすべてのエネルギーやノイズのビジョン」を表現したという極彩色の世界が広がる。ギリアム監督が初来日時に秋葉原を訪れた際の、カルチャーショックを再現した。「未来世紀ブラジル」ではディストピア的世界を描いており、本作はビビッドなビジュアルで、一見ユートピア的な雰囲気も感じられるが、その意図は「『ブラジル』と比べられたくないからだよ(笑)」。
「我々が今生きる時代は、消費、物質主義にまみれ、その間に『生きている意味はなにか』など、本当に大切な問いをしなくなっている。そして、ただただ自分を忙しくさせている、それが現代人ではないだろうか。蟻とか蜂は自分の存在意義など考えないだろう。現代社会はそういう人間ばかりが存在するんだ。ソーシャルメディアが、我々を社会的昆虫(ソーシャルインセクト)、あるいは集団行動をする昆虫にしてしまったのではないかというのが、僕の論理なんだ」
そして、我々現代人は「“コネクテッド”(接続している)な世界に生きている」と表現し、「果たしてそこから逃げることができるのだろうか。あるいはそんな世界で人は1人になることができるのか、あるいは自分自身は誰なのかを考えてみるのが面白いんじゃないかと思ったんだ」と本作に込めたテーマを説明する。
「モンティ・パイソン」時代から、新作を発表するたびにファンを魅了するギリアムワールドのイマジネーションの源はどこにあるのか問うと、「僕自身、イマジネーションはどこからやってくるものなのか、わからないんだ(笑)。それが普通だと思っているし、なんで皆が僕のように世界を見ないのか、不思議なくらい」と飄々と答える。“コネクテッド”な世界になった今「人間はニューロン、神経細胞のよう。情報が流され、自分を通ってその情報がまた受け継がれていくだけの存在になっている」と危惧し、そんな中で、自分なりのイマジネーションを持つには「やはりそれは一人で過ごす、そういう時間が必要だし、自分で思考する、そして自分で、想像力までに至らなくても、自分なりの世界の見方というものを見つけなければいけないと思う」と語る。
今回の来日で「コーエンの姿が、まるで日本の若者を描いているかのよう」だという感想をいくつも受けたことがとても興味深かったそう。実際、情報化社会で生きることの難しさを感じている日本の若者は少なくないことを伝えると「SNSなどで自分の意見を声高に表現することを怖がっている、そういう時代なのでは。人の気持ちを傷つけないよう、すごく慎重になっている感じがする。でもそれって、すごく危険なことじゃないかと思うんだよ。自分の意見を表現して、ディスカッションをするのが、社会を生き生きさせるもの。失敗を恐れず、自分の思うことをちゃんと言えるようになるべきだよ」とアドバイスする。
そして、「もっと自分で考えよう。他人に言われる世界ではなく、自分で世界を作り上げていけばいいんだ。あと、道を渡るときは左右を良く見ること。時々バスにひかれたりすることがあるからね(笑)」とユーモラスにメッセージを寄せた。
「ゼロの未来」は5月16日から東京・新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほかで公開。
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