実在のジプシー女性詩人を描いた「パプーシャの黒い瞳」ヨアンナ・コス監督に聞く
2015年4月3日 17:00
[映画.com ニュース]文字を持たないジプシーの一族に生まれながら、詩作を続けた女性の生涯と、激動のポーランド史を描いた「パプーシャの黒い瞳」が公開される。2014年12月に死去した、鬼才クシシュトフ・クラウゼと、妻で脚本家のヨアンナ・コス=クラウゼの共同監督作だ。このほどヨアンナ・コスが来日し、作品を語った。
パプーシャ(人形)という愛称をもつ、ジプシーの女性ブロニスワバ・バイスは、わずか15歳で年の離れたジプシー演奏家と結婚し、ポーランド人作家から才能を見出され、詩集を出版するが、それが注目を集めたことでジプシー社会から追い出されてしまう。パプーシャの波乱の人生、半世紀にわたるポーランド現代史をモノクローム映像で描き出す。
コス監督は高校時代の恩師からの話でパプーシャの存在を知り、知られざる詩人の才能に感銘を受けた。現在ヨーロッパには千数百万人のジプシーが住んでおり、「映画にするのにふさわしいテーマであると思った」と話す。パプーシャについてはこれまでドキュメンタリーのような短い作品があったが、本格的な長編劇映画は初。本作は中東欧の映画祭で多くの注目を集め、詩集やパプーシャ伝も復刊された。
長回しで展開する絵画のように美しいモノクロ映像が、作品の詩情をより高めているが、白黒撮影を選んだ理由をこう語る。「まずは芸術的な理由です。この作品は100年前の、現在は存在しない世界を再構築するわけですから、それにふさわしい形式としてモノクロが適当だと思ったのです。白黒の映像で過去を再現する上で、昔の写真や絵画を使い、それらの材料が白黒に適していました。2つ目は経済的な理由です。本作ではCGを多用しました。その場合、白黒のフィルムの方がCGとCGを使っていないシーンの差が見えにくいということがあります。あとは、映画の舞台美術を作る経費が安く上がるということがあります」
プロの俳優はパプーシャ役のヨビタ・ブドニク、夫役のズビグニェフ・バレリシ、ポーランド人作家役のイェジ・フィツォフスキら主要キャストを含めた5人ほどで、他の登場人物は実際のジプシーたちから出演者を募った。「3人の主要キャストは、役作りのために1年間を費やしました。残りの人たち、場面によって数十人、多いときは200人くらいの本物のロマの人が出てきます。彼らは特に準備をせず、自分自身のままで出演してもらっています」
ジプシーとして生まれたパプーシャの人生には悲劇的な側面も多いが、ジプシーという存在そのものは、ステレオタイプな描き方はしていない。「どの社会に住んでいるジプシーも、生活条件は様々です。映画では社会の片隅に置かれた貧しいジプシーの人たちが定住を迫られる場面も描きましたし、それから自動車に乗って、外国を行き来する豊かなジプシー、愚かなジプシーも賢いジプシーも描きました。その状況は変わりません。ひとつの尺度で、ジプシーはこうだということはできません。なかには百万長者もいますし、貧しい人もいるということです」
今年の第87回アカデミー賞で、パベウ・パブリコフスキ監督の「イーダ」がポーランド映画初となる外国語映画賞を受賞した。アンジェイ・ワイダ、ロマン・ポランスキー、クシシュトフ・キエシロフスキーら数々の巨匠を輩出しているポーランド映画界は、作家性の強い良質な作品を生み出す恵まれた環境があるそうだ。
「非常に安定した資金供給システムが出来上がっています。10年前にポーランド映画の製作にお金を出す国営の機関ができました。そのほか、公共テレビ局もお金を出し、地方からの基金、EUの基金もあります。そして、多くのポーランド映画かEUの他国との共同制作で作られています。もうひとつ重要なのが、様々な資金繰りに通じている、若い世代のプロデューサーが現在のポーランド映画を作っているのです」
闘病の後、61歳という若さでこの世を去った夫クラウゼ監督との思い出を聞くと「私たちは20年間一緒に仕事をしてきました。彼が死んでから2カ月で、まだなにも答えられません。一番つらいのは、一番楽しかった思い出かもしれません。あのときより良いことがないと考えてしまいますので。でも、人生は楽しく生きるのではなく、賢く生きるのが人生だと思うのです」
次回作は、クラウゼ監督と企画を練り上げてきた民族虐殺を扱った作品になる。公開時期は未定だが、「一般的に映画はゆっくりと仕上げた方がよい作品になるのです。早く作るのはテレビやインターネットです。それらとは違うリズムで生きるのが映画なのです」と自身の哲学を語った。
「パプーシャの黒い瞳」は4月4日から岩波ホールほか全国順次公開。
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