「孤独死」から人間の生と死を見つめる「おみおくりの作法」監督に聞く
2015年1月23日 15:35

[映画.com ニュース]孤独死した人を弔う仕事をする主人公が、最後の仕事を通して人生を見つめ直す姿を描いたイギリス映画「おみおくりの作法」が1月24日に公開される。メガホンをとったのは「フル・モンティ」などのプロデューサーとして知られるウベルト・パゾリーニ。「孤独死」というテーマに真しに向き合い、ほのかなユーモアを交えて繊細なドラマに仕上げた。来日したパゾリーニ監督が作品を語った。
ロンドンに一人で暮らすジョン・メイは、孤独死した人を弔う民生係として働いてきたが、人員整理で解雇を言い渡され、自宅近くに住むビリーの弔いが最後の案件になる。これまでも誠実に故人と向き合い、弔いをしてきたジョンだったが、いつも以上に最後の仕事には熱心に取り組み、故人を知る人を訪ねるうちに心の中に変化が生じていく。「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」「戦火の馬」など、英国の名バイプレイヤーエディ・マーサンの初主演作。
高齢化や孤独死は、英国でも日本と同様に社会問題となっている。「老人の独居が増えている状況は同じだと思います。この映画では、ひとりで死ぬということより、孤独に生きていることを強いられている人がいることを描いているのです。我々の社会が、自分が望まずに孤独に生きることを許している。そこに悲劇があると思うのです」と持論を述べる。
撮影前に7カ月にわたる入念なリサーチをし、劇中では孤独死した人の部屋が丁寧に作られている。「実際にジョン・メイのような仕事をしている人に取材をし、ひとりで亡くなった人の家やお葬式を調査しました。その中で訪れた人の自宅をそのまま再現しました。この作品で一番気をつけたところは、これが何かの寓話で、現実とまったく関係のない物語だと受け取られないようにすることでした。これはリアルな問題で、実際にこういう形で亡くなる方もいる、そんな現実を描いていると感じてもらえるように心を砕きました」
(C)Exponential (Still Life) Limited 2012ジョン・メイは、日々の業務をきちんとこなし、仕事帰りにパブに出かけることもなく、毎日たった一人で代わり映えのしない食事を取る。その生活ぶりから主人公の実直さがうかがえるが、監督自身の性格を反映させた部分があるそう。「時間をきっちり守ったり、強迫神経症的なこだわりは実は僕にもある部分なんです」。そして、理想を付け加えた。「心が広く、人間の命が持つ価値を理解し、そして人間であれば当然払わなければならない尊厳を大切にする。それは僕に欠けている力なので、主人公にはそういう資質を与えたんです」
真面目過ぎるといっても過言ではない主人公の日常の描き方など、劇中には軽やかなユーモアがちりばめられている。「ユーモアは人生の一部だと思っています。重いテーマだからこそ、作品のタッチを重くしたくなかったのです。現場や脚本の各段階で、自然な形、無理強いする状況ではなく、役者の中から有機的に生まれてきたユーモアを取り入れています。私は、声高に何かを主張するよりも、低ボリュームで繊細な表現の作品の方がメッセージがより伝わると思っています。すべてをドラマチックに描くと、現実からかけ離れていると思われてしまいますから」
観客はジョン・メイの生き方を通して、誰にでも訪れる死について思いをめぐらせるだろう。そして、思いもかけないラストシーンが待ち受ける。「ジョン・メイは弔いの仕事を通して、すべての人々の人生に等しく価値があるということを伝えます。脚本を書く前からエンディングは決めていました。この画が撮りたいということが最初から見えていたのです」と明かした。
「おみおくりの作法」は、1月24日からシネスイッチ銀座ほか全国で順次公開。
(C)Exponential (Still Life) Limited 2012
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