【佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】千年の一滴 だし しょうゆ
2015年1月12日 09:00

[映画.com ニュース] 映像があまりにも圧倒的だ。和食を描いたドキュメンタリと聞かされると、板前さんの精巧きわまりない包丁さばきだったり、築地市場の賑やかなセリだったり、器の美しさが描かれたりと、よくあるステレオタイプな映像を想像してしまう。ところがこの映画には、そういうシーンはほとんど出てこない。
冒頭は、木村多江の深みのあるナレーションとともに雪をまとった五重塔や寒椿などの美しい風景が紹介され、京都・祇園の料亭でだしをとる様子が描かれる。しかし「普通」なのはここまでで、いきなりカメラは超マクロ映像になる。鍋におさまった昆布から、まるでキノコの胞子が噴出するように旨味がぶわーっとにじみ出てくる驚くようなシーンが現れる。
そうかと思うと次の瞬間には京都からいきなり知床に移り、絶海の孤島のような知床の浜で、夏にひとり番小屋に暮らしながら、昆布の「ひろい漁」をやってる90歳のおばあちゃんが登場する。ひろい漁というのは文字通り、浜に打ち上げられている昆布を拾うというものだ。拾うだけなのに、ものすごく立派な巨大な昆布たち。
そして浜にヒグマがやってくる。吠える犬たち。おばあちゃんはクマをにらみつけながら、独白する。「ここらへんはクマが良く出る。おっかなくないとは言わない。オレだっておっかねえぞってにらみつけるんだ」
北海道の荒々しい野生と、京都の端然とした美と、そして徹底的に科学の目で探求される調味料のミクロの世界。この3つが渾然となって、観ているうちに忘我の境地に達するほどに映像にのめり込んでしまう。
登場人物はだれもかれもが魅力的だ。後半の「しょうゆ」編では、創業130年の京都の醤油屋が出てくる。町屋の2階に畑のように茹でた大豆を並べて耕し、そこに種麹をまく。代々、職人たちに伝えられてきたというセリフ「枯れ木に花を、さかせましょーう」が朗朗と響き渡る。美しすぎる。
この種麹は、アスペルギルス・オリゼというカビの胞子なのだという。そしてオリゼを専門に扱う「もやし屋」という商売があり、日本にはおよそ10軒がいまも残っている。そのひとつ、京都の東山にあるもやし屋が紹介される。あるじは白衣を着て試験管を捧げ持ち、風貌もかっこうも研究者のようだ。しかもおおもとの種麹が家のどこに保管されているのかを知っているのはあるじだけで、この極めつけの秘密は一子相伝で伝えられてきたという。誰も知らない種麹、その秘密を代々守り続けている白衣の研究者。なんだか壮大な物語の一端を覗いたようで、ゾクゾクしてしまう。
どことなく「NHKスペシャルみたいなドキュメンタリだなあ」と思っていたら、監督はNHK出身でこれまでNHKスペシャルをたくさん手がけてきているテレビディレクター柴田昌平さんだった。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
感情ぐっちゃぐちゃになる超オススメ作!
【イカれた映画を紹介するぜ】些細なことで人生詰んだ…どうにかなるほどの強刺激
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
映画ラストマン FIRST LOVE
「ドラマの映画化か~」と何気なくつぶやいたら後輩から激ギレされた話「これ超面白いですから!!」
提供:松竹
年末年始は爆発・秒殺・脱獄・名作!!
【全部無料の神企画】今年もやるぞ!ストレス爆散!!劇的チェンジ!! 1年の疲れを吹き飛ばそう!!
提供:BS12
“愛と性”を語ることは“生きる”を語ること
【今年最後に観るべき邦画】なじみの娼婦、偶然出会った女子大生との情事。乾いた日常に強烈な一滴を。
提供:ハピネットファントム・スタジオ
こんなに面白かったのか――!!
【シリーズ完全初見で最新作を観たら…】「早く教えてほしかった…」「歴史を変える傑作」「号泣」
提供:ディズニー
映画を500円で観よう
【2000円が500円に】知らないとめっっっっっっっちゃ損 絶対に読んでから観に行って!
提供:KDDI
今年最大級に切なく、驚き、涙が流れた――
双子の弟が亡くなった。僕は、弟の恋人のために“弟のフリ”をした。
提供:アスミック・エース
ズートピア2
【最速レビュー】「前作こえた面白さ」「ご褒美みたいな映画」「最高の続編」「全員みて」
提供:ディズニー