ディオールのアトリエに初潜入したドキュメンタリー監督が語るラフ・シモンズ
2014年12月31日 07:10
[映画.com ニュース] 老舗ブランド「クリスチャン・ディオール」が全面協力した初のドキュメンタリー映画「ディオールと私」が、2015年3月に劇場公開される。1947年のメゾン設立から65年、はじめてアトリエにカメラの潜入が許されたフレデリック・チェン監督が、同作について語った。
ブランド「ラフ・シモンズ」を立ち上げ、その後「ジル・サンダー」のクリエイティブディレクターを務めたラフ・シモンズ氏。12年、ミニマリストとして認識されていたシモンズ氏が、オートトクチュール未経験ながらクリスチャン・ディオールのアーティスティックディレクターデザイナーに就任し、ファッション業界は揺れた。
通常5~6カ月の準備期間が必要とされるなか、シモンズ氏は8週間という異例の短さで初のパリコレクションに臨むことになった。本作は、09年にアカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞にノミネートされた「ヴァレンティノ:ザ・ラスト・エンペラー」、「ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ」を手がけたチェン監督が、華やかなコレクションの舞台裏と、シモンズ氏とディオールの魂を吹き込むお針子たちの挑戦と情熱に迫る。
シモンズ氏はカメラ嫌いで知られるが、撮影前の打ち合わせでは「あまりに寡黙な態度に驚いた。もちろん、3カ月もの間撮影スタッフに容赦なく付きまとわれるなんて、誰でも気が進まないだろう。しかし、ラフの心配はもっと深刻なもののようだった」という。チェン監督は、そんなシモンズ氏の印象から「彼が見せたこの繊細さを映画の中心に据えようと考えた」。
「彼はディオールで開く最初のコレクションで、世間がどの程度自分に注目するのかをかなり心配していた。私は、彼がカメラマンにもみくちゃにされる有名人に変貌していくさまをとらえようと撮影を始めた。有名人を襲う、あの容赦のない、まぶしくて目も開けられないほどの、内面まで露呈させるようなカメラのフラッシュ。カメラと言うものは、おそらく人の魂を盗むのだ」
チェン監督は、ディオールの重圧を受けるシモンズ氏を理解するため、創設者のクリスチャン・ディオール氏の回想録を読み込んだ。「2人のクリスチャン・ディオールが存在する。世間の注目を集めるクリスチャン・ディオールと私生活を大切にするクリスチャン・ディオールだ。両者の溝は広くなるばかりで決して交わることはない」というディオール氏の思想を挙げ、シモンズ氏の内面に迫る。
「鏡に映る姿と本当の姿、この2つの姿が撮影中も繰り返し私の頭に浮かんだテーマだった。もしディオールが2人(公人と私人)いたとしたら、ラフ・シモンズはディオール本人の化身であろう。実際、2人には共通点も多い。ディオール同様、ラフ・シモンズもかたくなに私生活を守り、また、芸術家としての経歴も持っている。ディオールの回想録を読み終えた結果、私は、過去は未来を写すことができ、その逆に、未来は過去を写すことができるのだと気付いた。レンズの前で繰り広げられたすべての世界は、人格や感情の細かい点まで、回想録でディオールがコレクション作りについて述べている章と全く同じ世界だった」
回顧録を通じてからシモンズ氏が感じている恐怖に触れ、「ラフ・シモンズはヒッチコック作品の『レベッカ』(40)に登場するミセス・ド・ウィンターと同じ気持ちではないかと。屋敷の前の主人の亡霊におびえる主人公だ。ラフ・シモンズのストーリーは束縛からの解放である」とたどり着いた。
初公開されるアトリエと本作の関係性について、チェン監督は「ディオールのメゾンは、マネージャー、芸術家、職人たちが毎日理想を求めて切磋琢磨しあう場所であり、本作もその役割の一端を担うものであると信じている」と語る。そして「ディオールの世界に浸ってもらい、コレクション発表の壮絶な舞台裏を見せることによって、この映画がフランスの社会主義リアリズムの大家であるルノワールやゾラの伝統を受け継ぎ、パリの生活の断面を本質的に描き出せていたら光栄である。映画タイトル『ディオールと私』の『私』とは誰か? それは作品を見たあなた次第だ」とメッセージを送っている。
「ディオールと私」は、2015年3月から全国で公開。
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