V・シュレンドルフ監督、仏独の歴史描いた「シャトーブリアンからの手紙」で訴 える「心の姿勢」
2014年10月24日 06:10

[映画.com ニュース] 「ブリキの太鼓」で知られるドイツの名匠フォルカー・シュレンドルフ監督が、13年ぶりに日本での劇場公開が実現した「シャトーブリアンからの手紙」について語った。
1941年、ナチス占領下のフランスでドイツ人将校が暗殺され、ヒトラーは報復として収容所のフランス人150人の銃殺を命じる。シャトーブリアンの収容所でも27人分のリストがつくられるが、その中には17歳の少年ギィ・モケも含まれていた。
ヨーロッパの歴史を見つめてきたシュレンドルフ監督が、作家で思想家のエルンスト・ユンガー氏の回想録、ノーベル文学賞作家ハインリヒ・ベル氏の小説から着想を得て、フランス版ゾフィー・ショルと言われる少年モケらをめぐる悲劇に迫る。
シュレンドルフ監督は、2007年にフランス留学時に触れた物語と再び出合い、歴史を掘り下げていくなかで「これは映画にしなければならない、これは一種の運命なのだ」と感じたという。モケの存在がフランスでは英雄となっているため、映画化に反対する意見があるなか、モケが思いを寄せていたオデット・ネリスさんへの取材も敢行し、映画化に踏み切った。
日記の言葉を抜粋し劇中のセリフとして織り交ぜるなど、ユンガー氏の存在が色濃く出ている。シュレンドルフ監督は「一方ではヒューマニストであり、一方では審美主義者であり、そして人間のすべてを見つめている観察者」であると分析し、「実際に行動する者を讃えるものの、自らは政治的な行動をしない」人物像が、もうひとつのテーマを引き出したと語る。
「この物語はそれまで、フランス人のレジスタンスの物語として記憶されていましたが、私にはこの銃殺に対するドイツ人の対応もとても興味深いものに思えたのです。誰もが、命令通りに動いた。市民としての勇気を発揮しなかった。ドイツ側もフランス側も。私は、70年後の今日からみて、関係者した者たちは、それでも全員が人間だということを示したいと思いました。彼らは善意を持った人間だった。完全な悪人はいなかった。しかし、それでもなお虐殺は行われた。それが重要です」

劇中では、モケだけでなくドイツ将校や銃殺を命じられる兵士、フランスの役人や収容所の人質たちの葛藤(かっとう)が静かにあぶり出されていく。「この映画をポリフォニー(多声音楽)だと考えたからです。人質たちがそれぞれに最後の手紙を書くシーンに、それが最も強く表れています」。レジスタンスの実像に迫るため、ひとりの英雄を中心にすえた物語ではなく、人々の間にある連帯を重視した。
反ナチスのドイツ将校は、上層部から命令を拒否できず、フランスの役人も子どもたちの救出を試みるが、代わりの人選を行うことができなかった。激しいジレンマにとらわれながらも、命令に服従してしまう人々に投げかけられる「あなたは何に従う? 命令の奴隷になるな」という神父の言葉が、スクリーンを通して観客に突き刺さる。「今は幸いに世界戦争はありません。ですから、あのような過酷な状況はありません。しかし、自分の行為に責任をとるというテーマは今でも有効なのではないでしょうか」
ドイツは今年で統一25年を迎えたが、ナチズムに続く東ドイツの独裁体制の根幹にあった“同調者意識”は、日常で隣りあわせであることを指摘し、黒澤明監督作「生きる」を例に挙げて説明する。
「皆、官僚主義で同調して生きていますが、主人公の渡辺はひとりだけ同調せず、子どもの遊び場をつくります。こんなことは稀にしか起こらないかもしれません。渡辺の場合も,彼は余命幾ばくもない状況でした。けれど、どんな時にもあのような勇気を持ちたいですね。これは昔とか今とか、戦時とかの問題はなく、普遍的な永遠のテーマだと思います。人が自由意志で、どれだけ責任を負うか。『シャトーブリアンからの手紙』は人間としての誇り、心の姿勢、抵抗、不服従を扱っています。神父が言ったように、盲目的に命令に従うのではなく、良心に従いなさいと」
今年、「シャトーブリアンからの手紙」を皮切りに、40年を経てスクリーンに登場する「BAAL」などが上映される。シュレンドルフ監督は、「日本のみなさんに私の映画を再発見してほしいですね。ラテン語でいえば、ルネサンスです。年をとると、また新しく生まれたいものなのです」とメッセージを寄せている。
「シャトーブリアンからの手紙」は、10月25日から全国で公開。
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